初めての友だち


「…………」

「うわあっ!?」


 いつもと変わらないはずの朝。


 それは、ぼくが寝る前にこっそり〝ともだち〟が欲しいってお願いをし始めて、何日かたった頃。ある日、いつも通り目を覚ましたぼくの前に、ふわふわした〝小さな光〟が浮いていたんだ。


「これ……なに? もしかして、お父さまのお土産かな?」


 ぼくのことをじっと見ているように浮かぶその光を、ぼくは木の棒でつついてみたり、撫でてみたり、お父さまから貰った、小さなものを見るのに使うガラスで覗き込んだり、色々してみた。だけど結局ぼくじゃなにも分からなくて……だから最後にたずねたんだ。


「きみはなんなの? どうしてここにいるの?」

『…………ト、モ、ダチ…………』

「え……?」


〝ともだち〟


 恐る恐るたずねてみたぼくに、その不思議な光は小さな声で……だけどたしかにそう言った。


「ええええええ――――っ!?」


 ひ、光がしゃべったっ!?


 しかも、ともだちって……それって、ぼくのともだちってこと?

 これ……もしかしてぼくのお願いをエール様が叶えてくれたの!?


 いきなり不思議な光にそう言われたぼくはとってもびっくりして、思わずベッドから落ちそうになるくらい驚いた。


 そうしたら、ぼくのその声を聞いたお母さまが慌ててぼくの部屋にやってきたんだ。


「どうしたのですユーセ? どこか怪我でも……」

「み、見てお母さまっ! ぼくのお部屋に、こんなのがっ!」

「まあ……?」


 ぼくを心配して来てくれたお母さまに、すぐにぼくはこの不思議な光を見せようとした。だけど、たしかにぼくの目の前にいるはずのその光が、お母さまにはぜんぜん分からないみたいだった。


「ほ、ほんとうだよお母さまっ。ほら、ここにぼくの〝ともだち〟だっていう光が……」

「ふふ……そうですね。貴方ももう大きくなりましたし、今度お父さまがお帰りになったら、他の子たちと一緒に遊ぶ許可を頂けるよう、私からもお話ししておきます。ずっと待たせてしまって、ごめんなさい」

「え……? う……うん……。それはうれしい、けど……」


 そう言って、お母さまはぼくの頭をよしよしって撫でて、いっぱい抱きしめてくれた。でもその間もぼくのとなりには光がふわふわ浮いていて、じーっとぼくのことを見てるみたいだったんだ。


 けっきょく、その光は一日中ずっとぼくのとなりにいた。

 ぼくがご飯を食べるときも、お勉強をしてるときも、お風呂に入っているときも。ぼくはとっても恥ずかしかったのに、トイレにもついてきたんだっ!


 そして……結局お母さまだけじゃなくて、ヤジャ先生や他のみんなにもその光は見えてないみたいだった。


「きみは……本当にぼくのともだちなの? ぼくと、ともだちになりに来てくれたの?」

『……トモ、ダチ……』

「そっか……そうなんだ……」


 一日が終わって、夜になって。

 ベッドに横になったぼくのお布団の中に、ぼくはその光を包んで一緒に寝た。


 ぼくにはなにも分からなかったけど……もしかしたら、エール様がぼくのお願いを叶えてくれたのかもしれない。

 そう思うとだんだんうれしくなってきて、ぼくは初めて出来たともだちと、明日はたくさん遊びたいなっていう気持ちで一杯になった。


「じゃあ、きみのお名前はなんていうの? ぼくはユーセ! ぼくはきみのこと、なんて呼んだらいい?」

『…………エ……ル…………ヨ、ブ』

「え、る? 〝エル〟でいいのかな……? そっか……エール様がきみをぼくのところに遣わしてくれたから……だからきみも、エール様と似たお名前なんだねっ!」


〝エル〟


 ぼくがそう言うと、その光――――エルは、まるで喜んだみたいに少しだけ色を変えて、お布団の中で暖かくなったんだ。


 それを見たぼくはエルともっと仲良しになれたみたいな気がして、ぼくの方までとってもうれしい気持ちになった。


「わかったよ、エル! これからよろしくねっ!」

『……ユー、セ……トモ、ダチ……エ、ル……』


 ぼくはその日、本当に久しぶりに誰かと一緒に寝た気がした。

 

 大好きなお父さまとも、お母さまともはなれて一人で寝るようになって。

 そんなのもう平気だって思ってたけど、やっぱりとってもさびしかったみたい。


 次の日。いつのまにか眠っていたぼくが目を覚ましても、エルはちゃんとぼくの隣にいてくれた。

 

 よかった……やっぱり夢なんかじゃなかったんだ!

 本当に、エール様はぼくのお願いを叶えてくれたんだっ!



 そして、それから――――。

 ぼくとエルはどこに行くのも一緒で、本当に色んなことを二人でやった。



 ヤジャ先生の授業のときも、ちゃんと先生のねんど板がエルにも見えるようにしてあげたし、ぼくのことを大切にしてくれるみんなのことや、ネコさんや鳥さん、ワンさんのこともいっぱい教えてあげた。


 この世界のことも。ぼくたち人間のことも。

 ぼくがしってる全部のことを教えて、ぼくもそのためにもっとお勉強して。


 ねんど遊びも、お絵かきも、パズルも、ゲームも一緒にした。

 二人でそうするのは本当に楽しくて……エルがいてくれてとってもうれしいなって、心の底から思ってた。そして――――。


「ねえエル、これを見て! これ、なんだと思う?」

『わからない……せんい、くさ、いと……』

「えへへ……これはね、ぼくからエルへのプレゼントなんだよっ」

『ぷれ、ぜんと……』


 お話しできることもあっという間にふえて、半年くらいしたころには、エルはもう見た目以外は普通の人間さんみたいになってた。


 だからぼくは、エルになにか服を着せたりできないかなと思ったんだ。

 そうすれば、エルももっと普通の人みたいになるかなって。


 お母さまに習ったやりかたで、がんばって作った小さな服。

 ぼくはそれをエルに被せようとしたんだけど……やっぱりだめだった。


「だめだ……どうしてもすり抜けちゃう……。ぼくはエルに触ったりお話ししたり出来るのに、ほかの物はぜんぶだめなんだよね……」

『ユーセ……エル、これをつけたほうが……いいか?』

「え……? うん……もしそうできたらいいなって思ってたんだけど……だって、雨の日も風の日も、エルはなにも着てないから、お病気になったらいやだなって思って……」

『ユーセ……いや……エル……いや……』


 結局……。


 その時は少し残念だったけど、エルに着せてあげられなかった服はきちんとたたんで、その日はいつもみたいに一緒に寝た。


 でも、そんなことがあった次の日――――。


「うわあああああああああっ!? だ、だれっ!? だれなのきみ!?」

「おはよう、ユーセ……」 


 目を覚ましたぼくは半年前と同じくらい……ううん。もっとずっと驚いた声を上げて、すごい勢いでベッドから飛び起きた。


 だ、だって……そこには。

 寝ていたぼくの隣には……。


「わたしは、エ、ル……です。これで、ユーセのぷれぜんと……つけられ、ますか……」


 ぼくが一度も見たことがないくらい綺麗な、ぼくと同い年くらいの女の子が……服もなにも着ないで一緒に寝てたんだから――――。

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