消えた篝火
「エリカさんの力が〝消えかけてる〟……っ? それってどういう……」
「そのままの意味だ。エリカの中にあった筈の殺し屋の力は、もう殆ど残ってねぇ……」
「そんな……っ!? なら、それとエリカさんがこうなってるのと、なんの関係があるのっ!?」
エリカさんが倒れて数時間後。
殺し屋マンションの地下にある治療室。
本当に辛そうに……今にも泣き出しそうな表情で眠るエリカさんのベッドの周りには、僕と
あの後、僕から連絡を受けた殺し屋マンションのみんなは、すぐにエリカさんをここに運び込んでくれた。
特に永久さんはもし誰かが命を落としても、亡くなってすぐなら〝死んだ人を蘇生させる〟ことだって出来る。だから正直、その時は僕もきっと大丈夫だって……エリカさんも疲れが溜まってたのかもって、甘く考えてた。
だけど――――。
「永久の話じゃ、エリカの精神とエリカの殺し屋の力はとんでもなく深く結びついているらしい。エリカの力が消えるってことは、そのままエリカの〝心も消える〟――――つまり、〝死ぬ〟」
「もしそうなったら、きっと私の力でもエリカさんを治すことは出来ません……っ。私の力は物質的な存在は治せても、人の心や精神には作用させるのが難しいんです……」
だけど……まだどこか心に余裕のあった僕は、二人のその言葉でどん底に叩き落とされた。
え……?
なに……?
死……?
エリカさんが?
このままじゃ、エリカさんが死ぬ……!?
しかも、永久さんでも治せないって……?
な、なんで……っ!?
殺し屋の力が消えたら本人も死ぬなんて、そんなの聞いたことないのにっ!?
「エリカさんの治療をしていて気付いたんです……エリカさんの殺し屋の力は、〝エリカさん以外の誰か〟に、ずっと前に〝作り替えられて〟いた……」
「作り替えって……」
「そして……俺はそれをした奴を〝知っている〟。この前エリカが俺たちを裏切るように仕向けた〝
ど、どういうこと……?
エリカさんの力が円卓の父に作り替えられていて……そのせいで、エリカさんが死にそうになってるって……!?
「なにがエリカのトリガーになったのかは分からない……だが、あの〝クソ野郎〟がエリカの力にどんな〝細工〟をしたのかは大体想像がつく。まずはエリカが自分の炎にビビらねぇように、むしろ〝炎こそ自分の存在意義〟だと思うように弄ったはずだ。そうしねぇと、エリカは殺し屋として役に立たなかっただろうからな……」
「そして、きっともう一つは……もし何かの切っ掛けで殺し屋の力をエリカさんが〝拒絶〟した時には、エリカさんの力と一緒に、エリカさんの心も壊れるようにした……」
嘘、でしょ……。
なんでそんな……?
どうして……どうしてそこまでする必要があるの!?
「殺し屋の力を使えなくなったエリカは〝用済み〟ってことだよ。そうすりゃ裏切られる心配も、円卓について余計な口を割る心配もねぇ……そういう奴なんだ、〝あの男〟はな……!」
「特に……エリカさんは他の殺し屋さんと違ってとても強い力を持ってましたから……もしエリカさんの力が大したことなかったら、あの人もここまで複雑なことはしなかったと思います……」
愕然として尋ねた僕に、悠生と永久さんは本当に悔しそうに言った。
円卓の父っていう人がとても恐ろしい存在なのは僕も知ってる。
〝虐殺の二月〟で数億っていう人の命をたった一人で奪って、その時の六業会との戦いでも、当時の九曜はその一人相手に、母さんとシュクラさん以外は〝みんな殺された〟って聞いてる。
でもまさか、エリカさんにまでそんなことをしてるなんて……!
話を聞いた僕は悠生と同じように、どうしようもないほどの怒りに駆られた。
そして、エリカさんがこうなってしまった切っ掛けはやっぱり僕の〝あの話〟だ――――僕が昔の過ちから自分の力を拒絶していて、それで力が弱くなってたっていう話をエリカさんにしたから。
エリカさんは、僕のその話を自分の境遇と重ねて、記憶の中にあった〝違和感〟に気付いてしまって……それできっと、自分自身の力を拒絶してしまったんだ。
「な、なにかエリカさんを助ける方法はないの……!? 悠生や永久さんの力で、円卓の父の力を砕くとか……っ!?」
「それは……とっくに〝試した〟」
「試した……って、もしかして駄目だったの……?」
「はい……理由は分からないんですけど……。私の力も悠生の力も……エリカさんの中にある力に届く前に〝拒まれている〟感じで……」
「拒まれるって……」
悠生と永久さんの力が、エリカさんに届く前に拒まれる。
それって、まさか……。
力なく俯く永久さんのその言葉に、僕ははっとなって悠生の方を見た。
すると悠生も同時に僕のことを見つめていて……静かに、一度だけ〝頷いた〟んだ。
その悠生の表情は本当に辛そうで……僕はそれだけで、悠生の言いたいことが全部理解できたような気がした。だから――――。
「なら、僕がやる……っ! 出来るかは分からないけど……僕の〝
「
「そういうことかよ……考えたな、
だから僕は、次の瞬間には二人に向かってそう叫んでいた。
エリカさんの辛さや、円卓の父がやった酷いことには気付いてあげられなかったけど……それでも、今のエリカさんの気持ちはなんとなく分かる。
きっとエリカさんだって、もう悠生に怒ってるわけじゃない。
永久さんに嫉妬してるわけでもない。
何度もお話しして、納得して。
もう大丈夫だって、笑顔で一緒にいられるようになって。
〝それでも〟
それでもやっぱり、ふとした時に思い出して苦しかったり、自分の心の中を見せたくなかったりして、意識することなんていくらでもあると思う。
僕はまだエリカさんと友達になったばかりで、君について知らないことも沢山あるけれど――――それでも、そんな僕だからこそ出来ることもあると思うから。
でも――――僕がそう心に決めた、その時。
「なんだ……!?」
「え!? 地震っ!?」
うわわわわっ!?
い、いきなりなに!?
瞬間、地下にまで響く大きな衝撃がマンションを突然襲った。
小刻みだけど強い衝撃は僕たちがいる病室もガタガタと揺らして、僕と悠生は咄嗟にエリカさんを庇うように身構える。
でも永久さんだけは何かに気付いたみたいに天井を見つめると、すぐに顔色を変えて僕たちに叫んだ。
「悠生、小貫さんっ! 〝円卓〟です、円卓が来ましたっ! 殺し屋マンションが、円卓から攻撃されてますっ!」
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