降り注ぐ歌声
「はいはーいっ! というわけで……
「いいかお前ら、せっかく永久が気合い入れて準備したんだ。一発で覚えろよ」
「う、うわぁー……! 楽しみだなぁ……!? どんな授業なんだろうなぁ……!?」
「承知しました……ッ! 一字一句聞き漏らさず、私の炎の血肉としてみせます……ッ!」
「が、頑張ります……っ」
正直、何が〝というわけ〟なのかまだ良く分かってないんだけど……。
あのサダヨさんや他のみんなと夜ご飯を食べた次の日の夜。
マンションの最上階にある、事前に予約すれば誰でも使える共用スペースの大きな部屋。普段はパーティーや集会なんかに使うその場所に、僕たち五人は集まっていた。
メンバーは僕とエリカさん。それに
そして僕たち三人の前には、眼鏡までかけて完璧な〝先生スタイル〟になった永久さんと、かなり長い付き合いの僕でも殆ど見たことがない、黒いスーツに髪型まできっちり〝七三分け〟にした
っていうか……永久さんはともかく、悠生はその格好だと先生っていうより完全に殺し屋……ッ! もしくはインテリヤ〇ザなんですけど……ッ!?
「サダヨさんから話は聞きましたっ。四ノ原君は、自分の殺し屋の力をもっと上手く使えるようになりたいんですよね?」
「は、はい……っ。そうすれば、みんなやお父さんにも迷惑をかけなくて済むんじゃないかって思って……」
「いい心がけだ。俺や永久がお前の力を消せない以上、このまま死ぬまでその力と付き合うことになるかもしれねぇからな」
「うんうんっ! 僕もできる限り四ノ原君の力になるから、なんでも言ってねっ!」
「あ、ありがとう、ございます……っ」
僕たちがそう言うと、四ノ原君はまだちょっと固い感じで、でも確かに小さく頷いてくれた。彼の手元には真新しいノートが広げられてて、こうして見ても四ノ原君が本当はとっても真面目な子だったのが良く分かった。
さっき永久さんが言った通り、実は今回のこの勉強会は四ノ原君のお願いから始まったんだ。サダヨさんに連れられて他のマンションのみんなと話したり、実体験を聞いたりして、四ノ原君が自分からそう思ったみたい。
そしてそれを聞いたサダヨさんが、多分このマンションの中でも一番ってくらいに〝殺し屋の力に詳しい〟永久さんに、四ノ原君の先生役を頼んだ……そういう流れなんだと思う。
「ではではっ! 早速まずは基礎編から始めましょーっ! はい
「いきなり僕っ!? え、えーっと……僕のいた
「ぶっぶーっ! 違いまーす! 正解は……〝私の力〟ですっ! なんとなんと……六業会の神様って、実は私なんですーっ!(ドヤッ!)」
「えええええええ――――っ!?」
ど、どういうことなのっ!?
永久さんが〝六業会の神様〟!?
永久さんが円卓の母の器だっていうのは僕も知ってるけど……六業会でもそうなの!?
出だしから斜め上数万キロ先の彼方に飛んでいった永久さんのハイテンションに、僕も思わず頭が真っ白になる。
「えへへ……ごめんなさい。流石に〝私の力〟っていうのは大袈裟でしたっ! 正しくは私の力じゃなくて、〝私がなるはずだった人の力〟――――円卓の母って呼ばれている人の力なんですっ」
「そういえば……確かに以前小貫さんのお母様と争った際にも、マスターと永久さんはそう仰っていましたね……」
「そうだ。円卓も六業会も、そして四ノ原みたいな野良も。今のこの世界に溢れかえってる人外の力は、元を正せば全部〝円卓の母がばらまいた力〟だ」
な、なるほど……!?
最初の永久さんの言い方にはびっくりしたけど、そういう流れなら僕にも分かる。
六業会にいた頃は分からなかったけど……こうして悠生や永久さんと会って、二人と一緒に色んな殺し屋と戦って、理屈は分からないけどきっとそうなんだろうって感じていたから。
「どうして私と悠生がそれを知ってるのかっていうと……私たちが分け合っている〝あの人の力〟で、殺し屋の力を感じ取れるからですっ! 力の使い方はみなさん違うんですけど……私や悠生には〝どれも同じに見えてる〟んですーっ!」
「じゃあ、もしかして僕がこの前使えるようになった〝
「ですですっ! 小貫さんの力も、力そのものは〝他の方と一緒〟に見えましたっ!」
「鈴太郎のおふくろもそうだったしな」
「そうなんだ……」
僕も薄々はそうなんだろうなって思ってはいたんだけど、改めてそう言われると少し複雑だった。だって――――。
〝それが私の……いや、君の力だ。どうか、その力で彼女を助けて欲しい〟
僕はあの時、確かにソーマ様の声を聞いていたから……。
「つまり……円卓や六業会はそれぞれのやり方で、あの女の力を組織の殺し屋に〝分け与えてる〟。俺や永久が〝鋼の王〟や〝九曜の日〟の力を砕いても、あいつらは組織に戻りさえすればまたその力を修復できるってことだ」
「そしてそれが出来ない野良の方は、一度私たちの力で能力を消されたらもう二度と復活できませーんっ! ゲームオーバーですっ!」
「まあ、スティールや鈴太郎のおふくろみたいな奴は、持ってる力が強過ぎてそう簡単には〝砕ききれない〟んだが……四ノ原みたいな〝無抵抗の野良〟の力を消せないってのは初めてだったんだ」
うんうん……なるほどなるほど……?
僕がもう知っていることも、知らないことも。
どっちの内容も、二人は順を追って丁寧に説明してくれた。
でも、僕とエリカさんは殺し屋生活が長いからこの辺りの話もすんなり分かったけど、そうじゃない四ノ原君にはやっぱり全然分からなかったみたい。
「あの……でもそのことと、僕が力を上手く使えるようになるのと、どんな関係が……?」
「ふふっ。だいじょーぶですよ、今日の授業はここからが本番なのですっ!」
とっても申し訳なさそうに縮こまりながら……でも頑張って手を上げた四ノ原君に永久さんは満面の笑みを浮かべると、そのまま話を続けた。
「実はなんと……っ! この力って、持っている人が〝こうしたい〟って一生懸命願えば、形や強さを変えたりもできるんですっ! すごーいっ!」
「ええ……っ!?」
「強さを、変える……っ?」
えっ!?
なにそれっ!? どういうこと……!?
そんな話六業会でも……悠生からも聞いてないんだけどっ!?
「そのままの意味だよ。お前だってあの時に聴いただろ? あの女の歌を――――」
「あの時の、歌……っ?」
歌。
あの時に聞いた、歌。
〝貴方の願いを聞かせて――――〟
〝私が全部叶えてあげる――――〟
〝貴方のことが好きだから――――〟
それってもしかして、僕がストリ・ソーマ様の力に目覚める寸前……母さんの太陽に焼かれて、死ぬって思った時に聞こえた、永久さんの声そっくりの女の人の――――?
「何を考えてるかは知らないが……〝あいつ〟は嘘はついてねぇ。俺が永久の力を一緒に支えてやれるようになったのも、死にかけた俺が〝そう願ったから〟だった……」
あまりのこと呆気にとられる僕を見ながら、悠生は静かにそう言った――――。
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