取り戻した想い
「
「
限界を超えて力を引き出し、俺が本来持っていた炎の全てを燃やしても尚及ばなかった〝
自らの
「信じられん……! 貴様の因果は確かに〝封じた〟……! それが、〝ただの器〟である筈のその女に砕かれただと……ッ!?」
「ごちゃごちゃうるせぇぞ……! これで最後だ……ロード・エッジッ!」
あの時。
永久の力を借りて、俺が初めて〝
俺の拳は確かにレックスの聖剣を打ち砕いた。だが……全てが終わり、瓦礫すら残らない荒野と化した戦場に、レックスの姿はなかった――――。
次にレックスと会ったのはそれから一年以上後。
俺が
「む……?」
「な……ッ!?」
小鳥のさえずりが聞こえるうららかな朝。
備え付けのゴミ捨て場にゴミを出しに行った俺の目の前に、星のマークがいくつもついたパジャマと、海外のドラマでたまに見る三角形のもこもこした帽子を被ったレックスが立っていやがったんだ。
「お前は……悠生……? 〝
「て、てめぇ……ッ! まさかこんなところまで……ッ!」
正直……レックスの姿を見たその時の俺は内心で〝相当にビビってた〟。
奴とのあの戦いは、俺にとっても人生史上最高クラスのトラウマだったからだ。
だが、咄嗟に身構える俺目掛けて超速で突っ込んできたレックスは――――。
「う……うぅ……っ! うわあああああああ――――っ! 久しぶりだ……っ! 良かった……っ! 俺の知っている人がいた……っ!」
「は……!?」
「お前もこのマンションに住んでいるのか……っ? 何号室だ……? ぷにぷにチャットはあるか? 俺と交換しよう……っ! これでいつでも話せるぞ……っ! ああ……本当に良かった……!」
「はあああああああああ!?」
とまあ……再会した時にはもうそんな有様だった。
ただ、こいつには俺も聞きたいことが山ほどあった。戦ってる最中はそんな暇なかったが、こいつは永久について随分と〝詳しそうだった〟からな。
だが嘘か本当か、レックスは俺と戦った時の記憶も、円卓にいた頃の記憶も何もかもが曖昧で、はっきりと思い出せない状態だと言った。その説明がまた妙で、なんでも――――。
「〝縛られていた〟?」
「俺にも……〝それ〟がなんだったのかはわからない。だが……少なくとも俺は……人を殺すより……アニメを見たり、ゲームをしている方が好きだ……好きだったはず……その……はずなんだ……ッ!」
「お前……」
普段の生活力の無さとは裏腹に、意外と片付けられていたレックスの部屋。
そこには色々なアニメキャラやロボットなんかのフィギュアやプラモが、所狭しとディスプレイ用のガラスケースに丁寧に飾られていた。
俺はレックスほどそういうジャンルに詳しくはないが……そんな俺から見ても、こいつが自分の好きな物に対して、愛情を持って接していることはすぐに分かる。そういう部屋だった――――。
「お前のおかげだ……お前に殴られてから、俺は自分の好きな物を思い出すことが出来た……〝ありがとう〟、悠生……」
「そうか……それなら何よりだ」
結局、レックスからは俺が知りたかった情報は何も引き出せなかった。
ただ一つだけ分かったのは、こいつが〝素の自分に戻れた〟んだろうってことだ。
俺と戦った時の、全てを見下すような物言いや刃のような瞳。
どこか〝親父〟を思わせる尊大な振る舞い。
そういう気配も雰囲気も、再会したレックスからは完全に消えていた。
まあその代わり、ゲームに軽く数千万つぎ込むような、とんでもない〝超廃課金ジャンキー〟になっちまったが……それでも、今のレックスは昔より遙かに幸せそうだった――――。
――――――
――――
――
「さて……こいつは一段と厄介なことになって来やがったな……」
「む……? そうなのか……?」
「そうだろ!? お前はガチャ大爆死で聞いてなかったけどなっ!?」
すでに日を跨いだ深夜の大通り。
後方に乗せたレックスの暢気な物言いに、俺は思わず呆れて声を上げた。
〝厄介なこと〟ってのは、ユールシルがあの野良共の所にいた理由だ――――。
とりあえず、あの場でユールシルと戦うことは避けられた。
だが、どうしてここに来たんだと理由を尋ねた俺に、あいつはこう言ったんだ。
『実はこの辺りにとても〝面白い力を持つ野良がいる〟と聞いてね。君たちも、もし見つけたら教えてくれないかな? もちろん、その時は報酬もはずむからさ』
その場は知らぬ存ぜぬで適当に答えておいたが……はっきり言って状況は死ぬほど面倒くせぇ。ユールシルが〝探してる〟っていう野良……こいつは十中八九、殺し屋マンションで保護している
まったく……山田もついてねぇな。円卓や六業会と事を構えないと決めて新年一発目から、こんなクリティカルに厄介な依頼を先に引き込んじまってたとは。
「まあ、ここから先の判断は山田の仕事だ。四ノ原の親父に義理立てするのか、それとも円卓に四ノ原を差し出すか……流れ次第じゃ、また円卓とやり合うことになるな……」
「大変だな……頑張ってくれ……」
「そん時はお前も道連れだからな!? ちゃんと心の準備しておけよ!?」
「フ……そうしておこう」
どこかとぼけたように、しかしそれでもはっきりとそう言い切るレックス。
やれやれとヘルメットの中で溜息をつきながらも、俺はこいつのその言葉を信頼していた。
俺にとって永久と一緒に過ごす日々が何よりも大事なように、こいつにとっても、殺し屋マンションでの今の生活は絶対に壊したくない物なんだろうから。
「ならいいさ……頼むぜ、〝刃の王〟」
「ああ……。ランキングイベントが無ければ参加しよう……」
「ゲームイベント優先かよッ!?」
紅い月が見下ろす夜の街を二人乗りで疾走しながら、俺は頼れる相棒の一人になった〝かつての王〟にそう声をかけた――――。
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