厄介な依頼
「くそっ! なんで俺たちがマンションの掃除なんて……ッ!」
「ふざけんなクソババアッ!」
「お、俺たちを舐めてると酷い目に遭うぞ! ほんとだぞっ!」
「クックック……! なんだいその態度は……? どうやら、また〝掃除〟されないとわからないみたいだねぇ……ッ!?」
「ヒッ……!?」
殺し屋マンションのエントランスからすぐの広い廊下に、乱暴な大声が響く。
朝も早くから大声でブーイングするのは、この前
一度はその場で不満をぶちまけようとした三人だったけど、目の前に立つサダヨさんがその長い髪をぞわりと逆立たせて眼を赤く光らせると、怯えた様子の三人はようやくモップや箒に手を伸ばしていく――――っていうか、よくサダヨさん相手にあんな事言えたね君たちッ!?
「な、なるほど~……つまりこれが悠生の言ってた〝厄介な事〟……?」
「そういうことだな」
「あはっ! 三人ともとっても元気ですねっ!」
そしてその様子を見る僕と悠生。それにまだパジャマみたいな部屋着姿の
別に僕たちは野次馬としてここに来たわけじゃなくて、今日は僕たちもこの三人の様子を交代で見張ることになってるんだ。
「けれど……いくら子供とは言っても、この方たちはれっきとした犯罪者ですよね? マスターと永久さんのお力で殺し屋の能力を殺してしまえば、後は司法に委ねても良かったのでは?」
「だな、もちろん俺だってそうしたかったさ。それが出来なかったから厄介なんだ。昨日も軽く説明したが――――具体的には、〝アイツ〟のせいだ」
自分と同い年くらいの三人を、あからさまに子供扱いして容赦なく斬り捨てるエリカさん。エリカさんの言ってることは本当にその通りなんだけど……悠生はそんなエリカさんに答えながら、掃除を開始した三人の中で、一番小さな〝黒髪の男の子〟に目を向ける。
「アイツが昨日話した、〝
「あの子が、〝警視総監〟の……」
思わず口に出した僕のその言葉通り、目の前でサダヨさんに追い立てられながら掃除をする黒髪の子――――四ノ原君は、警察のとっても〝偉い人のお子さん〟なんだって。
「だからなんだというです!? なぜこの国の治安維持機関の不始末に私たちが関与するのですかっ!? それこそ、その警視総監とやら自らがご子息の更生に尽力するべきでは……っ」
「まあ待てって、それが出来ねえからこうなってるんだ。しかも理由は一つじゃねぇ……」
「そうなんですっ! 実はここからは、昨日の定例会で悠生がお話し〝しなかった〟ところなんですけど……」
な、なんだかさっきから妙にエリカさんが三人相手にキツいんだけど……!?
今にも三人を燃やしちゃいそうな勢いのエリカさんにヒヤヒヤする僕とは違って、悠生は平然とエリカさんをなだめながら言葉を続けた。
「流石にこの話はヤバすぎて定例会じゃ言えなかったんだが――――あの四ノ原連理が持ってる殺し屋の力は、俺と永久でも〝殺せなかった〟んだ」
「え……っ?」
「しかもなんと! あの子のお父さんって、この殺し屋マンションにいっつも依頼してくれる、とっても〝大切なクライアントさん〟らしいんですっ! オーナーからこっそり教えて貰いましたっ! ふんすっ!」
え、えええええ――――っ!?
なにそれ……っ!?
悠生にも殺せない力を持ってて、その上殺し屋マンションのクライアントのお子さん……!?
僕はどっちに驚けば……っていうかどっちも凄くびっくりなんだけどっ!?
「まず一つ目だ。あの店でこいつらが起こした騒ぎを潰した後、俺と永久は当然こいつらの力を殺そうとした。アイツ以外の二人は何の問題もなかったんだが……」
「あの子だけは何度やっても駄目だったんですっ! 今まで一度もこんなことなかったのに! 私、とってもショックですっ!」
「では……あの方だけはまだ殺し屋の力が使えるのですかっ?」
「〝使える〟。しかもクソ面倒な〝レア能力〟だ。俺も、もしあの時サダヨさんがいなかったらヤバかった」
う、嘘でしょ……!?
その話を聞いた僕は、びっくりしすぎて声も出せなかった。だって――――。
悠生と永久さんの力は〝殺し屋の力を殺せる〟。
僕もそれは今まで何度も見てきて、どれだけ問答無用の力なのかはよく知ってる。
この前の〝母さんとの戦い〟でも、あれは母さんが凄い力を持っていたから何度も防がれただけで、こんな野良の子が防げるような力じゃないはず。だって、最終的にはあの母さんの力だって〝砕かれちゃった〟んだから……。
「――――そして二つ目だ。今回の件でオーナーから教えられたんだが、どうも俺たちに政府関係の依頼を流してたのは、警視総監をやってるアイツの親父のパイプだったらしい。政府として表向きは円卓に従う振りをしながら、裏では俺たちに〝殺し屋へのカウンター〟になる依頼を流してたって訳だな」
「ええええっ!? じゃあ、山田さんがあの子たちをここに置いてるのは……」
「はいはーいっ!
「そうだったのですか……確かにあの方がまだ力を使えるというのなら、このマンションに置くのが一番安全でしょうね……あの三人にとっても……」
悠生が話してくれたそれぞれの理由に、ついにエリカさんも納得した様子で静かに頷いた。でもエリカさん、さっきから本当にどうしたんだろう……何か気になることでもあるのかな?
「そういうことだな。ただ、さっきも言ったがアイツの能力はレアでな。気をつけねぇと俺たちでも――――」
少し気になる様子のエリカさんを横目に、僕も悠生にうんうんと何度も頷いて見せる。こんなにイレギュラーなことが重なったら、確かに言われた通り様子を見るしかないよね。
でもその瞬間。
悠生があの子の能力について説明しようとしたその時。
「れ、連理! やれッ! 俺たちを飛ばせッ!」
「えっ!? で、でも……っ!?」
「いいからさっさとやれってんだよッ! お前はまだ力が使えるんだろうがッ!?」
「っ……!」
僕たちから十メートルくらい離れた位置で、三人のリーダーっぽい金髪の子が叫んだんだ。それを聞いた四ノ原君は驚いた様子で、でもすぐに近くの二人に手をかざしたんだ。そうしたら――――。
「えっ!? 消えた――――!?」
「わぁ! すごいすごいっ! 私でも人をお空に飛ばすことしかできないのにっ!」
「これは、一体……っ?」
「――――あれがあの四ノ原連理の力だ。自分も含めた他人や物を、一度でも見たことのある場所に飛ばせるらしい。どんなに離れてても一瞬でな」
なにそれ!?
っていうかなんで悠生はそんなに落ち着いてるの!?
驚く僕とエリカさんの目の前。たった今悠生が言った通り、四ノ原君も含めた三人は掃除用具も持ったまま、その場から完全に消えてしまったんだ。
「まあ、確かにこの力に俺や永久の力は干渉できなかったが――――こっちには〝アイツ〟がいるからな」
「ククク……ッ! 馬鹿なヤツらだねぇ……!? どんな力を持っていようが、このマンションとアタシからは逃げ出せっこないのさ……ッ!」
「さ、サダヨさん!? それってどういうこと――――」
僕はその様子に驚きながらも、スタスタと隣にやってきたサダヨさんに訳を聞こうとした。でも――――。
「――――う、うわあああああああ!? なんだよこれ!? このクソ連理、てめぇどこに飛ばしてんだ!? マンションの目の前じゃ……アアアアアア!?」
「ギャアアアアア! た、助けて……ッ!」
「えっ!? なんで……!? もっと遠くに飛ばしたはずなのに……!? ヒエッ……!?」
「俺の耳元でピーピーわめくな……〝殺すぞ〟」
でもその時。
少し遅れて〝マンションの外〟から三人の悲鳴が聞こえてくる。
それで急いで声の方に向かった僕たちが見た物。
それは確かに消えたはずの三人が、〝お星様のマーク〟が沢山プリントされたパジャマを着た、〝背の高いイケメン〟に吊るされている光景だったんだ――――。
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