その拳が握るのは
〝貴方の願いを教えて――――貴方の見たい世界を教えて〟
〝私が全部叶えてあげる――――私が貴方の世界を作ってあげる〟
〝貴方のことが好きだから――――貴方のことを愛しているから〟
脳内に、いや。俺の〝魂そのものに届く〟少女の声。
少女から注がれる視線は一瞬ごとに強まっている。
これ以上〝
「速攻でケリを着ける! 最後だ、ロード・スティール――――!」
『来たまえ――――ディヴァイン・フィスト!』
青く輝く地球を眼下に、俺は両の拳を燃やしてこの背に再び〝神の拳〟の
それは俺の魂の高まりをこの戦場に示し、一瞬にして俺の肉体を超光速に加速。
眼前に出現した全長数百メートルの巨人。超弩級の機動要塞ノアを丸ごと喰らい、その全ての力を解放した鋼の王へと突撃する。
「はあああああああ――――ッ!」
『オオオオオオオオ――――ッ!』
刹那、鋼の王を構成する金属の肉体がもはや影すら踏ませない俺の機動を捉える。
四方八方から伸びた圧倒的大質量の金属塊が、のたうつ大蛇と化して襲いかかる。
だが俺はその金属の濁流全てに正面から灼熱の拳で応戦。
百キロにも満たない俺の拳が、立ち塞がった数千トンはあるだろう金属の大蛇の
「〝浅い〟か――――ただデカくなったわけじゃないみたいだな」
『フフ……私も必死なのだよ、ディヴァイン・フィスト。だがだからこそ――――! それでこそ私と君の戦いは最後までエレガントであり続けるッ!』
だがしかし、俺の拳の一撃を受けた金属の触手は赤錆びて崩壊しつつもその原型を留める。ざっと見ただけでもその長さは数百メートル。ただぶん殴っただけじゃ、俺の拳でも砕ききれないってわけだ。
『私は嬉しいのだ! まるで子か孫の晴れ舞台を見る親のような気分だ! 君は全てにおいて想像を越えた! 君と
「ハッ! こんな〝馬鹿でかいジジイ〟はご遠慮したいな。介護疲れで禿げそうだ――――!」
目も眩むような巨体と灼熱の交錯。鋼の王は周囲に浮かぶノアの残骸すらも取り込み、無限にも思える超質量の渦で俺を包囲する。
対して俺はその無数の攻撃の一つ、馬鹿でかい金属の腕の上に降り立つと、そのまま加速疾走。まるで金属製のスロープの上をスノーボードでもするかのようになぞりながら閃光の火花を上げ、巨大な腕をバターのように切り裂きながら一気に鋼の王の至近へと肉薄する。
だがスティールも易々と俺の接近を許しはしない。
俺が足場にする腕を液体状に拡散させて俺のバランスを奪うと、そのままラッピングでもするように閉じ込めにかかる。さらには加速する俺を追っていた他の部位も一斉に攻撃に加わり、荒れ狂う〝金属の津波〟で俺を圧壊させようと迫る。
なるほど――――どうやらここで俺を倒せないまでも、俺を地上か宇宙の彼方か、とにかくこの戦場から離脱させ、
「フゥ――――ッ! おおおおおお――――ッ!」
『なん、と……ッ!?』
突如として燃え上がる灼熱。その光景を見た奴は、この場にもう一つの太陽がいきなり出てきたように見えたかもしれない。
その中心。俺の肉体から燃え上がる陽光の放射。それは俺本来の聖像の意匠がそのまま顕現したかのような熱を放ち、迫り来る金属の津波を一瞬で消し飛ばす。
『っ! まだだ、まだ……私の役目は終わってはいない……!』
「足掻くか――――!」
だがしかし。俺の灼熱に弾かれ、消し飛ばされようとする数多の金属をスティールは無理矢理繋ぎ止めてみせる。辺りに散らばる残骸も、今も喰らい続ける要塞も、自分の力に変換出来る物全てをかき集め、その背に自らの有様を示す〝燃え盛る高炉の前で聖剣を鍛える男〟の聖像を輝かせ、命すら力に変えて俺と対峙する。
『我が名は〝
その叫びと同時、この戦場に存在する全ての金属がスティールの身に凝縮。それはまるで神にも似た神々しい威容の完成された巨人の姿へと変じる。
一瞬。
スティールはその巨人としての姿のまま、俺を見守るような、〝敵意では無い感情〟が込められた眼差しで見つめた。ならば――――!
「――――受けて立つ!」
鋼の巨人が動く。全長数百メートルにも達する巨体でありながら、その動きは速く、鋭く、美しかった。
それを受ける俺は、滞空状態のまま静かに両拳を前に突き出す迎撃の構え。
心の底から沸き上がる灼熱――――俺が愛する、誰よりも大好きな永久から貰った熱と確かに心を繋ぎ、繰り出された鋼の王渾身の拳めがけて加速した。
閃光。そして幾重にも重なる光輪。
青い大気の層を背景に激突した二つの拳。それは辺り一切全ての物質を吹き飛ばし、地球全土を周回するほどの衝撃波を発生させる。
拮抗。
だがしかし、その拮抗はすぐに崩れた。
鋼の拳の先端が砕け、ひび割れる。
亀裂はやがて巨人の全身へと蜘蛛の巣状に奔り、溢れた力が跡形もなく光の粒になって消えていく。
閃光そのものと化した俺の拳は巨人を穿ち、一瞬でぶち抜いた。
「なるべく家の近くに落ちるように祈っておいてやるよ。〝またな〟、スティール――――」
「フ、フフ……。君も落ち着いたら私の島に遊びに来たまえよ。もちろん……その時は〝レディ・トワと一緒に〟ね――――」
砕け、光の粒子が静かに渦を巻く天空。
スティールは最後にそう言って笑うと、そのまま眼下の大地へと落ちていく。
そして巨人の肉体を正面から貫通した俺の腕の中。
そこには穏やかな呼吸と共に眠る永久が、確かに抱きしめられていた――――。
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