第22話 メカトロ研

競技自転車部のクラブハウス前で解散したあと、ミユは寮の自室に戻り、作業着をスクールバッグに入れて、カート部の部室棟へ歩いて向かう。寮の自転車置き場の脇を抜けたとき、視界の端にふと違和感を覚えて振り返る。


自転車置き場の一角には数台のスクーターが停められている。何の変哲もないスクーターが並ぶ中で、違和感のあるスクーターが目に入った。

それは、前輪が二つ、横に並ぶ形で付いているスクーターだった。

どうしても後輪の数が気になり、スクーターの後ろ側に回ると、後輪は一つだった。

「これ、前が二輪のタイプの三輪車なんだ。変なの」


メーターを見ると、純正メーターの他にも後付けのメーターらしきものが取り付けられていて、改造されているようだ。

寮の自転車置き場に停めているのだから、寮生のスクーターっぽいので、そのうち持ち主は分かるだろう。さすが高専、変な物があるなあと感心しながら目的地へ向かう。


体育館にさしかかったところで、人だかりを見かけた。気になって隙間からのぞいてみると、ごちゃごちゃした瓦礫の上を球体のラジコンロボットが移動していた。実習の成果を披露しているのか、そうでなければなにかの新歓のためのパフォーマンスかもしれない。


一見ボールにしか見えないロボットが、重力に逆らって瓦礫を登るのがなんとも不思議で、多くの人が足を止めて見ていた。


「テンテンも見学していく?」

聞き覚えのある声の方を振り返ると、ルームメイトでメカトロニクス研究会の溝渕舞だ。

「やっぱり、メカトロ研だったんですね。初めて見たけど、すごいですね」

「そうでしょ? 私が作ったからね」

「そうなんですか? 舞先輩が、全部?」

「いやいや、まさか。私は、プログラム担当だから、プログラムの一部を書いただけなんだけどね。基本的な設計をしたのは、あの人だよ」

「あの人?」

「コントローラ持ってる人の、後の人」


「あ、香西先輩だ」

「知ってるの?」

「学生会で少し」

「ああ、そうか。香西先輩はメカトロ研の副部長をしながら、学生会の副会長もやってるんだよね」

「すごいですよね」

「うん。でもがんばりすぎだよ。いつだったか、讃岐高専の西讃キャンパスがAIのコンテストで優勝して以来、ずいぶん無理してるみたいだから」

「全国優勝?」

「そう。いまでこそ、同じ讃岐高専だけど、もともとは東讃キャンパスと、西讃キャンパスは別々の高専だったでしょ? だから今も別々に活動してるんだけど、西讃キャンパスがAIコンテストで優勝したの。だから優秀な中学生が、西讃キャンパスに流れてるって話だし、香西副部長としても心穏やかじゃないと思うよ」

「そうなんですか」

「うん。東讃キャンパスは、四国大会では優勝常連の名門だけど、私が入る数年前には全国でも優勝してたんだけどね。ここ最近ではあまり成績がふるわなくて、香西先輩は、在学中に何が何でも優勝したいんだと思う」

「そうだったんですね……」

「ごめんね。変な話になっちゃって。部活行く途中だったんでしょ?」

「あ、いえ、大丈夫です。また寮で」

舞にお礼をいって、部室に向かった。

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