第13話 報告

鬼神おにがみくんごめん! かおる達にバレちゃた」


 私は喫茶店での話し合いの翌日、学校に着くとすぐさま彼に謝った。


「えっと……バレたって?」

「私が鬼神くんの家に行ってる事」


「あぁ、そうなんだ……まぁいずれバレると思ってたから」


 彼は優しく微笑んでくれたけど今回は私の自爆だから何にも言えない。


桃宮ももみやさんが良ければ、犬飼いぬかいさん達も連れて来ていいよ?」

「それは……その」


 言い淀む私に柔らかい声が囁きかける。


「ふふ、あの場所がお気に入りなんだね」


 彼は私の心を少しずつ理解してくれている。私の癒しの場に誰も立ち入らないで欲しい事も。


 自業自得なんなんだけどなぁ。


「まぁ、あの場所はその……好きかだから」

「良かった。おばあちゃんとおじいちゃんが大切に育てた木だからね」


「立派な木だもんね」

「うん」


 あの場所が好き。

 あの木も好き。

 ん? も、ってなんだろう?


 遠くを見るような懐かしい顔の彼を自然と見つめる私。そんな私は何を思ったのか話題展開をしなければと焦りとんでもない事を口走ってしまった。


「お、鬼神くんは大きい胸の女の人がいいの?」


「…………へっ?」


 彼は私の言葉を理解してないような顔をしてこちらを振り返る。そんな私も何を言ってるんだと思うけど口が勝手に動いてしまう。


「ほ、ほらだって……初めて会った時、わ、私の胸を見てたから」

「…………」


 彼の顔をまともに見る事ができない。ここが教室だという事も忘れてしまって。チラリと彼の横顔を見ると耳まで真っ赤に染まっていた。当然私の耳も同じ状態。


「い、いやぁ……胸のあるなしは……その、関係ない……かな」


 どこか歯切れが悪くても精一杯答えてくれた彼に私の鼓動が早くなる。


「そ、そっか」

「う、うん」


 この一言しか言えなかった。

 そして妙に気まずくなって、この日は彼との会話がまともにできない。


 胸の大きさは関係無い。


 学校からの帰り道「今日は行けないから、桃太郎によろしく」とだけ告げて足早に帰ってしまった。



 ――――――

 ――――

 ――



「ただいま〜」

雪音ゆきね、おかえり」


 玄関を潜るといつもは聞きなれない声が聞こえてきた。

 その声の主は。


「パパ!」


 その声がパパだと気づくと鞄を置くのも忘れて駆け足でリビングに向かう。



「おう! 元気にしてたか」

「うん! パパも元気にしてる? ちゃんと食べてる? 寝てる?」


「ははは……相変わらず心配性だなぁ雪音は」


 私のパパは医者をしている。

 日本のみならず世界中でその腕を奮るう日々。この手が誰かの命を繋いでいるのだと思うと私はとても誇らしい。


 私は小さい時に大怪我した事がある。幸いパパが近くにいた幸運と医療機器が充実していたお陰で大事には至らなかったらしい……らしいと言うのは私の記憶が曖昧だから。


 その事を家族に聞いても、すぐにはぐらかされてしまう。


「パパはいつまで居るの?」

「やっと落ち着いて来たからな……暫くはこっちにいるよ」


「ヤッター!」

「雪音〜パパを独り占めしちゃダメよ?」


 そう言ってママも輪の中に加わる。


「そう言えば兄さんと姉さんは?」

「あぁ、2人なら薬品関係の研究所にいるぞ。多分2人もその内帰ってくるだろう」

「そっか!」


 それから私はパパとママと一緒に食事をして、悪友達の話や学校でのあれこれを語っていった。


 2人は嬉しそうに私の話を聞いてくれている。そんな時間が楽しくて最近の心の住人の話題を出した。



「この前さ。丘の上に大きな木がある家があるじゃない? あそこに住んでる鬼神くんって子がワンちゃんのエサに色々買ってきてさぁ」


「「えっ?」」


 2人の声が重なった。

 私はそれに気付かずさらに続ける。



「その鬼神くんがさ、お腹が空いてないのにケーキ買ってきたりしてさぁ」

「雪音、今なんて……」


「え〜? だからケーキ……」

「いや、そうじゃない。その子の名前だ」


 パパの真剣な表情に私は少し驚いてママを見る……ママもまた同じような顔で私を見つめていた。


「えっと……鬼神くん。鬼神千姫おにがみせんきくんだけど」


 彼の名前を言った途端に両親は今までに見た事がない表情で席を立ち、リビングを出ていった。


 私……なにかまずいこと言ったかな。


 2人が戻ってくるまでの時間が永遠のように感じた。

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