第14話 質問


 パパとママは真剣な表情をしていた。私は何をしたのだろうか思ったけど、真剣な2人の表情を見ると自分の口からはどうしても言葉が出てこない。


雪音ゆきね


 その沈黙を破ったのはパパだった。


鬼神おにがみくんは……その、どんな子なんだい?」

「えっ?」


 私はてっきり男の子の家に1人で行った事を怒られると思っていたのにバパからの質問に一瞬言葉に詰まってしまった。


 だけど否定される事はないだろうという思いからなるべく良いイメージを話すようにした。


「あのね! ワンちゃんに優しくて、花が好きで――」




 ――――――




 どれくらい彼の事を話していただろう? 

 気付けば30分近く両親に語っていた。私としてはまだ語り足りないけれど、そろそろ夕飯が冷めてしまうので締めくくらなければいけない。


「それでね……あの」

「どうしたんだい雪音?」


 真剣に私の話を聞いてくれたパパに正直に言うことにした。


「今度……その、彼とデ……お花見に行くの」


 デートという言葉が口から出そうになって私はビックリして急いで訂正した。


 彼とはそんな関係じゃない……まだ。


「花見か」


 パパは何かを考えるように目を閉じている。ママはそんなパバの肩に手を置きじっと答えを待っている。

 しばらくして。


「……終わったら」

「え?」


「花見が終わったら……鬼神くんをウチに連れて来なさい」

「……えっ? はっ?」


 乙女にあるまじき反応だっただろうか? 

 いやいやそれどころじゃない!

 私のバパは壊れたのかしら?


「な、何を言ってるの? バパ」


「いやぁまぁ……なぁ母さん?」

「そうね、あなた」


 見つめ合う2人……そして微笑みながら私を見てくる。


 いやいやいや……私には1ミリも分からないんですけど?

 なにそのラブラブぶりは? 

 娘の前で何見せつけてんのよ。



「まぁ、娘が惚れた男の子をこの目で見ようと思ってな!」

「べ、別に惚れてないしっ」


「またまた〜雪音は嘘が下手ね」

「嘘じゃないし、ホントだし!」


「30分近くも1人の男の子の話をするなんてなぁ?」

「そうよね、あなた」


 2人はまたからかってくる。その状況にいたたまれなくなった私はガタッと席を立ち。


「ご馳走様!」


 逃げた。


 そして部屋に引きこもり話した事を後悔しながら悶々とした時間を過ごす羽目になってしまった。



 ――――――

 ――――

 ――



 翌日の学校で。


「ってゆ〜事があったんだよ、かおる〜」

「なるほどな、そりゃおめでとう」

「おめでたくない」


「フフ……親公認」

「ソラまでやめてよね〜」


「まぁでも良かったじゃない、反対されないだけマシよ?」

「う〜ん……」


 私達4人は中庭でお昼ご飯を食べている。相変わらず彼はお昼休みにどこかに行ってるけど今更聞くのは野暮というものだ。


「それで、どうするの? 彼に言うの?」

「う〜ん……悩み中」


「まぁ、当日までに決めればいいんじゃないか?」

「そうは言ってもさぁ、鬼神くんにも予定があるだろうし……」


「フフ……なら先手必勝」

「ソラ? なにしてんの?」


 ソラの手元を見るといつの間にかスマホを手に何やらピコピコしていた。

 そして数分後。


「雪音……見て」


 スッと目の前にソラのスマホの画面が映し出される。そこには2人のやり取りが。



 忍びの国の猿飛さるとびソラ

『雪音の両親が結婚の挨拶に来いってさ』


 鬼の国の姫

『当日……何着ていけばいいでしょうか』




「なーにやってんだ! おどれぇぇぇぇぇ!!」


 私は必死になってソラの首を掴んで揺さぶっていた。


「とりあえず……オッケーみたいだな」

「ソラは流石ね」

「あぁ。雪音を怒らせるのは日本一だな」


 かおると咲葉さくははお茶をすすりながら遠い目をしている。


 その後、ソラのスマホで誤解だと言う旨を送った時の彼からの返事は少し寂しそうだったのは気のせいだろう。



 こうして彼との花見の日がだんだんと近づいてくる。何度もカレンダーを眺めているのはなんでだろう。



「アレ? 私、鬼神くんの連絡先知らない」



 今更になって彼の連絡先を聞けていない事実に気付く間抜けな乙女がそこにはいた。



 私だった。



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