第8話 不安

 少しずつではあるけど彼の事を理解してきた。


 あまり多くを語らない彼だけど動物や植物が好きだと言う事が最近の収穫。

 彼の家に行くのが最近の楽しみになっているとは誰にも言えない。


 この前の告白じみた言の葉は未だに私の胸に鐘を打ち付ける。


 も、桃太郎ももたろうの為なんだからねっ!


 と頭の中で言い訳をするけど私は首を横に振る。ただ……彼と居ると落ち着く、この感情が一番しっくりくる。


 そんな中、学校では体育の授業が行われていた。女子はバレーボールで男子はバスケットボール。


 ふと彼を見ると自分のチームのネット下でひとり佇む。どうやら自分は足でまといになるからと前線には出ない気らしい。

 それでも彼の近くには男子が数人守るように配置しているのを見て少し安心した。


 気づけば最近やたらと私の目が彼の方に向いていると自覚する。


 気のせいよ、気のせい。

 桃太郎の為なんだから。


 授業も終わり昼休みになると、彼はまたフラフラと教室を後にする。


「……雪音ゆきねどこ行くの?」

「ちょっとお花摘み」


「わかった……お弁当が無くなってても知らない。フフフッ」

「それはやめて」


 ソラに一つ断りを入れると私は彼の後を付けて教室を出た。申し訳ないと思いながらも好奇心が勝ってしまう。


「どこいくんだろ?」


 彼はゆっくりと歩きながら階段を降りてある場所で止まり、ノックをしてから入った。


 場所は保健室。


 やっぱりどこか怪我してるのかな?


 私は興味本位で保健室の扉をそっと開け中を覗く。しかし入口にカーテンがしてある為彼の姿は見えない。


 耳だけに意識を集中し会話の音を拾う。



「どうだ?」

「はい……いいです」


 なんと中から聞こえてきたのは、かおるの声だった。それに彼は「いい」と言っている。


 な、何がいいの?


 私は更に耳を扉に近づける。


「あと……どれくらいだ?」


 かおるの声がよく聞こえない。


「です、でも……」


 彼の声も所々昼休みの雑踏に混じって聞き取りずらくなってくる。


「ゆ……には……のか?」

「いえ……ない……です。お願いします」


 彼はかおるに何をお願いしているの? 気になって仕方がない。最近少し話をするようになった男の子。その男の子と親しそうにしている親友。


 このモヤモヤはなんだろう?

 と思う反面。そういえばかおるは最初から彼の事を知っていた様子だったなと思い出す。思い出すと同時に納得してしまった。


 そういう関係なのかな。


 私以外の3人とは良く会話をしている。しかし彼が私と話すときは……いつも寂しそうに悲しそうに話す印象。


「……仲良くなったと思い込んでいるのは、私だけなのかな」


 私はつい独り言を呟いていた。その独り言に対して横から答えが返ってきた。


「あらあら、私はあなたと仲良しな親友よ」


 ふふふっ。と不気味な笑みを浮かべているのは咲葉さくはだった。


「げっ、咲葉。なんでここにいるのよ?」

「それはこっちのセリフだけど? 私は指を怪我したから保健室に来たの。あなたは覗き?」


「ち、違うっ」


 今の状況はどう見ても覗きだった。


「早く教室帰らないとソラに全部食べられちゃうわよ?」

「あぁ! そうだったぁぁ!」


 私はその言葉にダッシュで階段を駆け登る。


 胸に残るしこりはいつか溶けるのかな。

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