第7話 坂道
彼と
朝、学校に登校する時間はホームルームが始まるギリギリ。そして授業中は寝ている事が多い印象。体育の時はどこかに行って着替えているみたい。運動は苦手で体育の後の授業には毎回遅れてくる。
そして、昼休みの昼食の時間になるとフラフラと席を立ち教室から出ていく。もしかしたら学食に行ってるのだろう。お昼の邪魔をしてはいけないのでそこはスルーする。
そして一番意外だったのは私の友達3人衆とよく話している事。それも彼から話しかけるのではなく、
「……
ソラが彼に何かを言っているけど気づいていない。彼女が隣にいるのに。そこでソラがはっとしたような顔になり彼の正面に陣取る。
「……鬼神」
「うわっ! えっと、さ、
「呼んだのに気づいてない……もしかして」
「あはは……ごめんねっ! 寝てたみたい!」
嘘だ……彼は起きていた。
最近、彼を見ていておかしな事に気づく。彼はよくつまずいたり、机や物にぶつかったりしている。その事実はきっとソラも理解していたから彼の正面に移動したのだ。
「大丈夫?」
「う、うん大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「それならよかった」
そこに咲葉とかおるがやってくる。
「鬼神、ソラと何話してんだよ?」
「鬼神さん、最近調子はどうですか?」
彼の周りに一気に視線が集まるけど4人はそんなことお構い無しに続ける。
「なぁ、今度鬼神の家に行っていいか?」
「なななな、なっ!」
かおるのそのセリフに私はつい口を挟んでしまった。
「なんだよ
「えっ? いや……そうじゃないけど」
あの場所はできれば誰にも知られたくない。私のお気に入りスポットに他の誰かが入ってくるのは何となく嫌な感じがする。あそこで夕焼けを見ながら過ごす時間が私の癒しなのに。
それに今は。
「あはは。ごめんね
彼は私の気持ちを知ってか知らずかやんわりと断ってくれた。
「そっか。じゃあしょうがねぇな。気が向いたら言ってくれ!」
「うん、気が向いたら」
その後は私を交えて5人で授業の事や部活の事を話しながら学校での一時が過ぎていった。
そして放課後。
「ねぇ、鬼神くん」
「ん? どうしたの桃宮さん」
私は彼の家の庭にいる。
もちろん桃太郎の世話の為だ。
帰り際に鬼神くんに「今日行っていい?」と問いかけた。彼は「いつでも来ていい」と微笑む。
私は一度家に帰ってから自転車に乗ってここまできた。もちろん桃太郎にお土産を持って。
「その、学校でかおるが言ってた事……なんだけど」
「あぁ、犬飼さんが僕の家に来たいって言ってた事?」
「うん、どうして断ったの?」
私は夕日に映る彼の横顔を見ながら言葉を待つ。
庭には2人がけのベンチがあり、彼はゆっくりとそこに行き腰を下ろす。私はどうしたものかとその光景を見つめていたが、彼の方から手招きされたので一緒に座ることにした。
手招きをする彼はオレンジ色のせいか、少し大人びて見えてドキドキしたのは内緒。
「僕はさ、この場所が好きなんだよね」
彼はゆっくりと話しはじめる。
「ここは……祖父母の家だって聞いてる」
「聞いてる?」
妙な言い方が気になる。
「うん。昔のこと……あんまり覚えて無いんだよね。ここに来たのは本当に小さな頃だから」
あぁそういう事か。幼少期の記憶は曖昧だからあんまり覚えてないのか。私にも身に覚えがある。
「それに僕、最近まで海外に居たからさ」
「えっ? 外国にいたの?」
「うん、その関係で手続きが遅れちゃって」
「だから入学式に間に合わなかったんだ」
「そういう事」
本題に戻すけどと彼は言った。
「僕はこの場所で見る……あの、えっと……桃宮さんとの景色が好きなんだ」
「――っ!」
彼の不意の一言に私の心臓は跳ね上がる。
一体彼はどうしたの?
「この前、桃太郎と初めて会った時の事覚えてる?」
「……う、うん」
私は心臓の鼓動を抑え込むように胸に手を当ててできるだけ平静を保ちながら答える。
「あの時さ……なんだか懐かしいって思ったんだよね」
「……」
私も懐かしいと思っていた。
それと同時に寂しくもあった。
「なんだか、この光景は誰にも譲りたくないような……ふたりだけの時間にしたいような」
「……」
私は何を聞かされているのだろう。かおるの提案を断った理由を聞いただけなのに。これじゃあまるで……こく。
「って迷惑だよね……ごめんね」
「えっ?」
迷惑だなんてそんな事ない。
「桃宮さんの友達に酷いこと言っちゃったかな?」
「あ……いや」
彼は頬をポリポリかきながら苦笑いを浮かべている。
「今度……落ち着いたら招待するよ。それでもいいかな桃宮さん」
「えっと……う、うん。落ち着いたら」
この鼓動が落ち着くのはいつになるの?
「わ、私……きょ、今日は帰るねっ」
「えっ桃宮さん?」
来たばっかりなのにと言いたげな彼の言葉を遮りながら、オレンジ色の坂道を全速力で駆け下りる。それとは反対に私の鼓動は駆け上がる。
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