第1話

異世界転生した。うん。

それで?その後どうするの?

そんなこと言われてもどうすればいいのか全く分からない。

「とりあえずあの壁のところにいくか…」

そう思い歩きだそうとするが、感覚がなく、ずっこけそうになる。これも慣れないとなぁ…


三十分ぐらい経っただろうか。

俺はようやく壁のところへ辿り着いた。

そこには入り口のようなものがあり、沢山の人々が出入りしていた。人々は中世っぽい服装をしていた。いや中世っぽい服装がなんなのかは分からないけど。

「あそこ入れないかな…」

俺の今の服装は学ラン。これが中世っぽい服装に合っているかは分からないが多分大分アウェーだと思う。

そもそも入れるかすら怪しい。パスポート持ってないしな。

そこで人混みに紛れて入ることにした。


何とか壁の中に入ることが出来た。そこにあったのは、

「ここ、城下町だったのか!」

沢山の家、店。そして奥に佇む馬鹿でかい城。やはり異世界転生したとみて間違いなさそうだ。

しかし、この街のことは全く分からない。そこら辺の親切な人に案内をして貰おうと思ったが、ここでふと頭によぎったのが

「これ言語どうなってんだ?」

よくある異世界転生モノとしては、例え異世界であってもなぜか日本語は通じていたので主人公は難なく生活できていた。それがこの世界でも通じるか。

「まあ異世界転生自体有り得ないことだし、日本語通じてもおかしくないだろ…」

そう思い、通りかかった人に話しかけた。


「あの、すみません」←日本語

「(おう!どうかしたかい?)」←異世界言語


ちくしょう!全然分かんねーじゃねーか!

やはり現実は甘くなかった。沢山の人がいるのに、言語が通じないというだけでこの孤独感。つらい。

「宿とかどうしよう…」

もちろん言語が通じないのでは宿をとることすらできない。金ないしな。

野宿するしかねーのかと思ったその時。


ガバッ!

「!?」

突然視界が真っ暗になり、体が大きく浮き上がった。なんだ!?

「(よし、そのまま連れて行け!)」

何やら男の声がしたがそんなこと気にしてられない。誰かに担がれてること、そして街の喧騒が遠のいていることが分かり、俺はいまどこかへ連れて行かれるということを理解した。

だが理解したところでどうすることもできない。俺は抵抗もできずに誘拐されてしまった。


しばらく経ち、視界が明るくなった。

そこは薄暗い密室の中だった。

腕が動かせない。縛られているようだ。

しかも半裸である。目の前にいたのは、覆面を被り、黒い服を着た男が数人いた。男の一人がしゃべり出した。

「(ついてなかったなァ、旅人さんよ。痛い目に遭いたくなけりゃ、持ってるもん全部出しな)」

異世界言語で、男が何か喋っているが何を言っているのか全く分からない。

とりあえず、通じるかも分からない日本語で必死に訴えかけた。

「あの!俺に何をしようとしてるんですか!?やめて下さい!」

「(…あァ?なんだコイツ、わけの分からんこと言いやがって)」

「(兄貴!この旅人何も持ってませんでしたよ!無一文ですコイツ!)」

「(…チッ、何だよコイツ。何も持ってねーなら、仕方ねぇな)」

「(お前ら、コイツを殺せ)」

「(ヘイ!)」

なんか勝手に話が進んでいるが通じた、ということで良いのだろうか。

すると男はナイフを取り出した。ナイフ!?

全然話通じてない!!

「ちょ─」

「(オラ死ねェェェ!)」

ドスッ

鈍い音がした、下を見ると自分の胸にナイフが思いっきり突き刺さっていた。

「(ヘヘ…)」

男がナイフを抜き取る。俺の胸から大量の血が噴き出してくる。

「…あ…あ」

今のはどう見ても心臓に刺さっていた。痛覚がないから痛みを感じることはなかったがそんなことはどうでもいい。俺はもう助からない。

ああ…この世界に転生して一時間ぐらいしか経ってないのにもうオサラバかよ…

だんだんと意識が、意識が…


遠のかない。


「あれ?」

自分の胸をもう一度見る。出血が止まっている。傷がない。なんで?血が出過ぎてもう出なくなっちゃった?いやだとしたらなんで俺の意識はあるんだ?

すると男が舌打ちをした。

「(チィッ、コイツアンデッドか!)」

「は?え?」

「(兄貴!爆弾を持ってきましょう!アンデッドは粉々になれば生き返りません!)」

「(よし、大量に持ってこい!)」

男達は大急ぎの様子で部屋を出た。

「なんだコレ…助かったってことか?」

そう思い安心していると、黒いボールみたいなものが部屋に投げ込まれた。

待て待て待て、コレはまさか…!ばく…

「(残念だったなアンデッド!これで粉々になっちまいな!)」

今度はさすがにマズイ…!


ドゴォォォオオン!


しばらくして、目が覚めた。俺はまだ薄暗い密室の中にいる。辺りを見渡すと爆発の跡と、俺の血らしきものが大量に飛散していた。…これで決まりだ。

「俺…不老不死になってる!」

さっきの爆発の威力がなかったわけではない。目の前に投げ込まれたから普通の人間なら即死だろう。だが俺は生き延びている。ましてや傷ひとつ付いていない。

いや、正確には傷がすでに完全に治っていると言ったほうが正しいか。

ともかく近距離の爆発で死ななかったのなら俺は不老不死になった…ということだ。信じがたいが。

爆発の衝撃で、俺は拘束から解放されていた。部屋の鍵も壊れている。

ここまで来たら、やることは一つ。

「ここから脱出だ」

あとこんな目にあわせたアイツらへの仕返しもな。

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