最終的処理結果

 何度も同じことが繰り返され黒い球体全体に泡構造の白点が現れては小さくなりながら“ブラウン運動”のようにな振動を続けていた。

「映像の縮小はこれが限界です」と冴羽さえばさん。

「これって、始めの状態に戻ったように見えるんですが」僕は言った。

「いや、そうじゃない。いま見てる映像は、もとの白点が集まってできた集団が拡散しながら更に集団を作り超大集団になった。それを縮小したものだよ。始めに戻ったように見えるけどね」と教授が説明すると「つまり、これはフラクタル構造になってるってことね」と彼女も答える。

「拡大しても拡大しても同じような構造がくり返されるってやつですよね。聞いたことあります」と僕。その間にも白点は振動しながらどんどん間隔を広げていった。

「いったいどこまで続くんでしょうか」僕はすこし不安になった。

「うむ、それは……」教授は額に手を当てた。

「おお、まずいぞ。これがフラクタル構造だとしたらこの拡散と空間膨張が無限に続いていくことになる」教授が言った。

「データ上でも空間が急激に膨張しているわ」声音で彼女のあせりが伝わる。

 投影機の『ブゥーン』という音がだんだん大きくなっていく。

 次の瞬間、黒い球体の映像が薄れていったかと思うと急にまぶしく光り出した。

「冴羽くん、プログラムを終了して」と教授が言い「は、はい」とあわてて彼女が操作し始めた時『ボワン』と大きな音がした。同時に映像の光が消えてコンピューターと投影機も動きを止めた。

「あー遅かったぁ」彼女が言い、僕と教授が側に行くとモニターも消えていた。

「座標空間の膨張がコンピュータの処理能力の限界をはるかに越えてしまってる。すみません教授。まだかなりプログラムの修正をしないとダメみたいです……」 

「しかたないさ。銀河の編移データと重力相互作用だけでは不十分だったんだ、私も甘かった。一方的に膨張していくだけの結果になったとしたら、斥力もしくは宇宙定数、他にもいろいろと組み込む必要がありそうだ。そうなると、もっと規模も大きなスーパーコンピューターによる処理が必要だろう。しかし今回の結果にはこれで充分。ただ最終的になにが起こったか知りたかったがね」教授は少し残念そうに言った。失敗らしいけど僕にとっては面白いシミュレーションテストだった。

 

 僕はその後も教授の“宇宙の構造形成理論”の研究を手伝うことになった。研究は順調に進んで1年後に教授の発表した論文が注目を集めた。

 研究は素粒子から大宇宙、つまり無限小から無限大まで、全体の中の小さな一つ一つの部分にすべてが含まれるいう“フラクタルな世界”の謎に迫りつつあった。

 僕はいまの研究が進み、将来は銀河と恒星も含めた“全宇宙“シミュレーション”が完成し、さらに宇宙の謎が解き明かされる日がくるのを楽しみにしている。

 そしていまも研究室の片隅には、場違いな“ビンゴマシン”が飾られている。


 おわり(つづくかも……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

研究補助員 外山 脩 @pikanchu1115

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ