第4話和解編
彼はふたを開けて先ほど入れたかき揚げの状態を確認する。
少し
先に入れていた月見卵も程よい白さで、きみは濃い黄色を保っている。
ふわっと香る出汁の効いた匂いに大きく息を吸いこむ、とても美味そうだ。
みさきは鍋敷きの上に載せられた土鍋のふたを持ち上げる。
もわっと大量の湯気が立ち昇りまだぐつぐつと煮え立っている。
どこからどう見ても完璧な鍋焼きうどんになっているが、欲を言えば茹でたホウレンソウあたりも入れたい所だった。
寒くなってきた今の時期に冷え性のみさきはそれを見てほっこりと笑う。
「さて、食うか……」
「うん、いただきます‥‥‥」
彼は箸をサクッとかき揚げに入れて先ずは出汁の効いた
じわっと
そのままレンゲで
濃い醤油の味がガツンと来て庭掃除で疲れた体に染み渡り食欲をそそる。
続いてそばを引っ張り出し口に運ぶ。
すぞぞぞぞぞぞぉ~
しっかりと小気味よい音を立ててそばを吸い込むと麺がつゆをまとって口の中に旨味を広げる。
「うん、うまい!」
彼はもう一度レンゲで
みさきは取り皿に箸とレンゲでうどんを引っ張り出し入れる。
熱々のそれはそれでものびている事は無いようで、ちぎれちぎれにならずしっかりと持ち上げられた。
エビ天は二つ入っている。
みさきはそのうちの一つを取り皿に入れて、次いでねぎやかまぼこなども入れてからフーフー言いながら口に運ぶ。
熱々が取り皿に入れる事により程よく冷めて舌を火傷する事は無い。
もごもごと咀嚼して飲み込み、にへらぁ~と笑う。
「あったまるぅ~、美味しっ!」
そしてエビ天を口に運ぶ。
かぷっ!
かじりつくと途端にだし汁の味が口に広がり、ふにゃふにゃな衣がぷりぷりのエビと一緒に口の中に広がる。
そしてねぎやうどんとまた次々に口に運ぶ。
みさきはそれを大いに楽しむ。
「さてと、どうするかな月見。崩すかそのままか……」
「あたしは卵割っちゃおうっと。きみがとろけて麺がおいしいんだよね~♪」
言いながら二人は相手の手元をチラ見する。
サクサクのかき揚げ入ったてんぷら月見そばの「緑のたぬき」。
熱々の湯気をまだ立ち昇らせぐつぐつと美味しそうな「赤いきつね」。
本来はインスタント麺ではあるモノの一工夫する事によりその完成度は激変をする。
「「……」」
しばし無言。
しかしみさきは土鍋のエビ天を取り出し取り皿に入れて彼に渡す。
「エ、エビ天はあんたも食べていいわよ。あ、味見も出来るしね……」
「うーん、お前って月見の卵好きだったよな? 食うか??」
二人はそう言って互いに自分が食べていたモノを渡す。
そして彼はエビ天を、みさきは月見のきみをレンゲですくい口に運ぶ。
「「美味しい!」」
思わずそう言って彼は渡されたうどんやネギなどを口に、みさきはそばもすすりながらかき揚げのサクサク感が残っているのを楽しむ。
背景にいたきつねとたぬきもいつの間にか肩を組み合っている。
いまこの家のハルマゲドンは終わった。
お互いの「赤いきつね」と「緑のたぬき」を二人は楽しみながら明るい笑い声が聞こえ始めるのだった。
― 完 ―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます