第3話赤いきつね、緑のたぬきアレンジ編


 みさきは思う。

 この「赤いきつね」こそのどかな日曜のお昼ご飯に最適ベストだと。



 彼は思う。

 午前の庭掃除で軽く汗をかいたからガツンとした醤油味と油のしみたかき揚げの「緑のたぬき」しか選択肢チョイスはないと。



 睨み合う二人。

 背景のきつねとたぬきもシャドーボクシングをしている。

 そしてその戦いの火ぶたを切るように沸いたやかんが「ピー」っと音を鳴らす。



 「ふん、ならば『緑のたぬき』の至高の食べ方を見せてやろう!!」


 そう言いがら彼は素早く封を切り、ふたを開け中身を取り出す。

 そしてなんとあのかき揚げまで出してしまう!?



 「なっ、とち狂ったの? 何故かき揚げを出すのよ!?」


 「ふん、常識通りにこの『緑のたぬき』を作れば良いという訳では無いのだよ! アレンジは無限大。そしてその母体となる『緑のたぬき』はこう言う事が出来るのさ!!」



 言いながら彼は何と冷蔵庫から卵を取り出し、付属の粉つゆのもとを入れてから麵の上に卵を割って載せ、熱々のお湯を注ぎふたを閉めその上にあのかき揚げを乗せる。


 それを見て、みさきは背景に雷を落とす!

 背景にいたきつねもストレートを喰らいよろけているぞ!


 そう、みさきはその意味する事に気付いたからだ!!



 「つ、月見てんぷらそばだと…… しかもかき揚げが最初から崩れないように後入れにするつもり? なんていう事を……」


 「わかったか? これぞ『緑のたぬき』を至高にして食べる方法よ! ただお湯を入れて食うしか能の無い『赤いきつね』にはできない芸当よ! お揚げに月見は合わんもんな」



 「くっ、でも忘れてない? 昨日の夕方にタイムセールスの半額で買ったエビ天が有るって事をっ!!」


 「な、なにっ!?」



 みさきはレンジ下から土鍋を引っ張り出す。

 そして先にお湯を入れてもうじき出来上がる「赤いきつね」をその土鍋に移す。

 そこへ生卵、ふえるわかめ、そして時間が経ってふにゃっとしたエビ天と長ネギを少し切ってぶち込みふたをして火をつけた!



 「ま、まさか鍋焼きうどんだと!? 貴様正気か!? 麺がふやけてしまうぞ!!」



 「ふふふ、だから出来上がり一分前に土鍋に移したのよ! どうこのゴージャスな鍋焼きうどんは?」



 「お、おのれぇ! 半額の時間が経ってふにゃふにゃのエビ天にそんな使い道が有ったとはぁ!!」 



 思わず膝から崩れ落ちる彼。

 背景にいるたぬきも強力なボディーブローを受けてマウスピースを吐き出す。

 かなり効いている様だ、何故ならそばには鍋焼きが出来ないからだ!


 既に勝利を確信したみさきは土鍋のふたから立ち昇る湯気を見ながら満足そうに笑う。



 そして出来上がった「赤いきつね」と「緑のたぬき」をテーブルに持ってゆくのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る