合わせ鏡に眠れる龍は――いずれ、巡り逢うあなたの為に――

高坂八尋

第1章 鏡界を越えた出逢い

*いずれ出逢うことを誓い*


まどか、俺達はいつか出会う」


 落ち着いていて柔らかな、低い声。


 そっと耳元で囁かれて、円は、その奇妙な表現に意識を寄せた。


 円と見知らぬ彼はもう会っているはずだ。こうして側近くで声を聞いているのだから。


 布団の温もりに抱かれたまま、聞き慣れない声に耳を澄ます。


 円より遥かに大人の男性の声だった。まだ十にもならない円に、男の声だけでは、どの程度の年齢かは判らないが、親戚にいる大学生のお兄さん位なのではないかと思った。


 身の危険は感じなかった。


 なにより夢なのだとしか思わないのだし、またその声があまりに優しく、悲しげだったからだ。


「関わってはいけない。必ず後悔する事になる」


「……どうして、辛そうなの」


 男が身動ぎしたのが解かった。


「気にするな、直に痛みは消えるから。もう、終わりだから」


 円が寝ぼけまなこのまま微笑む。


 薄っすらと若い男の顔が見えた気がするが、霞の向う側だった。


「いつか会えるのなら――守ってあげるから、待っていて。待っていてね」


 嘆息の後に優しく頭を撫でられて、その少し硬い手のひらに、心がゆっくりと静かになる。


 円は深い暗闇の中に沈んで行った。


 

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