第33話 芽生えた気持ち7
靴下を履いている間に、店員さんがスニーカーを広い店舗の中から選んで持ってきてくれる。白地にピンクのラインが入っているもの、パステルピンクのもの……。すると、五足目に持ってきてくれたスニーカーを見て、痛みで表情が曇っていた桂さんが一気に明るくなる。
「あの! この一番派手なピンクのを履いてみたいです!」
どれよりも目を引くビビットピンクのスニーカーを指さした。ソールや紐まで同色で、靴底がサメの歯のようにギザギザでデザイン面でもインパクトがある。
店員さんからスニーカーを受け取ると、嬉々とした表情で履いて立ち上がる。鏡の前に行くと、
「かわいい!」
と声を上げた。今日の服のメインであるワンピースが紺色だから、足元に派手なピンクがきても色同士ケンカしない。差し色として使える。それにとても似合っていて、それを嬉しそうに履いている桂さんが、
「かわいい……」
無意識のうちに言葉に出していた。
「ん? なんか言ったか?」
「え? いや……僕も似合ってて良いと思いました」
慌てて言い直す。別にマイナスのこと言ったわけじゃないから、言い直さなくても良いとは思うのだが、思わず隠してしまう。
「そうだよな⁉ よし、ワタシこれ買う!」
「わかりました。じゃあ、すいませんがこの靴のお会計お願いします」
「ありがとうございます。では、レジまで」
「ここは僕がお会計してくるのでそこにいてください」
会計を済ませて、その場で靴を履き替える。その時、桂さんが眉をハの字にして耳打ちする。
「駿河、ごめん。その、今財布見たらちょっとお金足りなくて。このあとATM行っておろしてくるから……」
「誕生日」
「へ?」
「六月三日、誕生日だったんですよね?」
「なんで知ってんの? ワタシ、話したっけ?」
「こないだ風邪で病院行ったときに問診票書いたじゃないですか」
「あー、そうだったか。あの日のことは記憶が曖昧だ」
「だから、誕生日プレゼントとして僕が渡したということでどうでしょうか?」
「えっ⁉ だ、だって、この靴、七千円近くして……」
「僕は今まで友達にプレゼントを渡したことがありません。どうプレゼントを探して渡したらいいのかもわからなくて。でも、渡した人が喜ぶものであればいいなと、ずっと考えてました。この靴履いた桂さんの表情見たら、これが相応しいじゃないのかって」
「……本当にいいのか?」
「ええ。後から請求するなんて卑怯なこともしませんよ」
桂さんは、丸くした目をぱちぱちと何度かまばたきした後、優しく笑った。
「ありがとう。たくさん履くよ」
「僕もそれならとても嬉しいです」
「なんだか、駿河には助けてもらってばっかで申し訳ないな」
「お互い様ですよ」
桂さんがいることで僕はどれほど毎日が楽しいか。今日だって言葉に表せないくらい、とても楽しい。
「もう少しだけ歩けそうですか?」
「ん、大丈夫」
「じゃあ、リュック探しに戻りましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。