第34話(最終回)芽生えた気持ち8

「美味しかった~」

 晩ご飯にオムライスを食べて満足した表情で、駅を目指し歩きながら、横を歩く桂さんは言った。

「まさか駿河までリュック買う流れになるとはなー」

「一緒にあれだけリュック見てたら欲しくなるじゃないですか」

 僕は手に持っている大きな紙袋を見る。一日見てまわって、最終的に桂さんは最初の雑貨屋さんでみた黒色のオーソドックスなリュックを、僕もその隣にあった防水仕様の黒色のリュックを買ってしまった。

「それを衝動買いというのだよ、駿河クン」

「一期一会と言ってくださいよ、桂さん」

「明日からこのリュックで登校するの楽しみだな」

「そうですね。帰ったら早く寝て、寝坊しないでくださいね」

「言われなくても、大丈夫だし」

「本当ですかねぇ」

「……なぁ、駿河」

「なんです?」

 桂さんは僕の顔を覗き込むと、

「今日楽しかったぜ、ありがとな」


 きらびやかなネオンの街を背に笑った。

 綺麗だ。街頭に照らされ輝く瞳も、艶やかな肌も、夜風になびく髪も。彼女のすべてがまぶしい。でも、目を閉じたくない。ずっと見ていたい。

 ああ、やっぱり僕はこの人が好きだ。

 いつもそばにいるから好きになってしまったなんて、ちょろい男だ。そう思われても仕方ない。生まれてきて、彼女ほど僕のそばにいて、寄り添ってくれる人はいなかった。創作を頑張らなければと思わせてくれるのも桂さんだ。明日も、来年も、その先も一緒にいられるならどれほど楽しいだろう。知らない世界を見つけていくとき、隣で「おもしろいなぁ」と笑って言ってほしい。

 だから、その一歩として、彼女に言おう。


「桂さん」

「なんだ?」

「僕もずっと今日が来るのを楽しみにしてました。帰るのが惜しいくらい、とても楽しかったですよ」

 一瞬驚いたように目を見開いてから、いつものように歯を見せて笑顔を見せた。

「それならよかった。また遊びに行こうな」

「ええ」


 帰宅して、寝る前にノートを広げ、シャーペンを握る。異性の友情と恋の間で揺れる様子。これをテーマに書くことにした。初めて自分の中で生まれた感情。記録として小説に残すのが一番だろう。そう思ったからだ。

 

 本格的に夏が始まる。僕は、この世界を明るく照らす太陽のような彼女に恋をした。

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