第32話 芽生えた気持ち6

 食後はようやく今日の目的、リュック探しだ。服屋さんだとか雑貨屋さんだとかは桂さんの方が詳しいこともあり、興味あるお店を見つけると、目を輝かせて入って行った。

「リュック、山ほどあるな」

「色や大きさ、ポケットの数に位置、無限に種類ありますよ」

「うわー、どれにしよう。さっきの店のリュックもかわいかったしなぁ……。あ、悪い、ちょっと待ってもらってもいい?」

 空いていたベンチに腰掛けると、桂さんは靴を脱ぐ。靴擦れで出血していた。

「またやっちゃったな。何回も履いたんだけどな」

 カバンからティッシュを取り出し、血を拭う。

「結構出血がひどいですね。絆創膏買って来るので、ここで待っててください」

 幸い、近くにドラッグストアがあって助かった。絆創膏を買って渡す。桂さんは貼って再度靴を履く。

「歩けますか?」

「なんとか」

「では、靴屋さん行きましょう。確かこのフロアにありました」

「靴はこのままで大丈夫だし……」

 立ち上がろうとした時、桂さんはバランスを崩しかけて、僕の腕を掴んだ。彼女の柔らかで小さな手とその熱に一瞬にして心臓が跳ね上がりそうになった。

「ご、ごめん!」

「大丈夫です。このまま腕、持ってていいですよ」

「……ありがと」

 桂さんは痛みを我慢しながら、少し申し訳なさそうに僕の腕を掴んだまま歩いていく。

 記憶通り、少し歩いたところに靴屋さんがあった。この階のフロア半分ほどを占める大きな店だった。入り口すぐにあった試着用の椅子に桂さんを座らせ、「すいません」と近くにいた女性店員さんに声をかける。

「彼女、ちょっと靴擦れしてしまって。代わりの、歩きやすい靴を探しています。ただ、足の出血があって歩くのがつらそうなので、予算一万円くらいで何足か持ってきてもらえませんか」

「サイズと、ご希望の色がありますか?」

 桂さんは少し緊張しながら、

「えっと、サイズは二十四センチで。そうだなぁ……。ピンクが入ってるスニーカーがいいかな……」

 と希望を伝える。

「持ってきますね。こちらでお待ちください」

「あと、彼女素足なので靴下もあれば。先にそちらはお会計させてもらいますので」

「なるほど、かしこまりました。靴下コーナーこちらですので」

 靴下専門店ではないから、可愛らしいデザインのものは少ない。無難なリブの白い靴下を買って持って行く。

「これくらいしかなくて」

「全然問題ないぞ。ありがと」

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