第14話 気づき2
料理は調理実習でやった程度だった。喜志芸に進学が決まったあの日から、勝手に冷蔵庫を開けて、自分のご飯を作るようになった。
お金があれば外食で済ませたかったが、あの通帳入りの巾着をもらうまではお小遣いもなく、自炊せざるを得なかったのだ。最初はちゃんと作れるか不安だったが、レシピさえちゃんと読み解くことが出来れば何でも作れた。好きなものを作って食べることがこんなに楽しいとは。やってみないとわからないものだ。
約束通り、夕方六時過ぎに桂さんがやってきた。
「よぉ!」
「来ましたね。用意できてますよ」
ローテーブルに二膳分のご飯とお箸とコップ。
「白飯も用意してくれてありがとな」
「いえいえ。桂さんは何を作ってきてくださったんですか?」
「筑前煮作ってみた」
「いいですね。僕は鮭のちゃんちゃん焼きです」
こないだフライパン一つで出来るレシピを探してたら見つけた。
「おいしそうじゃん!」
そう言うと、桂さんはスマホを取り出す。
「ピザ食べた日はお腹空きすぎて忘れてたけどさ、こういう時はな、食べる前に写真撮るんだよ」
料理の写真を撮り始める。立ったり座ったり、上から、斜めから、いろんな角度から何枚か取っている。
「写真撮ってどうするんですか?」
「えっ、いや、まぁ……思い出として残してる感じかな……。逆に駿河はスマホで何撮ってんの?」
「いや、なにも」
「え⁉」
僕のスマホ画面を見せる。
「まじで写真フォルダ空じゃん……。待ち受けも初期画像のままだし」
「カメラっていつ起動したらいいんだろうってなるんですよね」
携帯電話は帰宅したらリビングに置くという決まりがあった。学校にも持って行ってたけど、調べものするくらいでそんなに触ることもなかった。スマホに機種変更したけど、未だに機能をほとんど使いこなせてない。
「いいなって思ったら写真撮っておくと楽しいぞ。ふとした時に写真フォルダをさ、バーッてスクロールして、『こういう日があったなぁ』とか思い出せるから」
「なるほど」
思い出は頭の中に残せばいいと思っていたけど、アルバムのような使い方をすればいいのか。
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