第13話 気づき1
入学式を経て、学科別に行われたガイダンスで文芸学科全員と顔を合わせた。ほとんどおとなしそうな方々ばかりで、ガイダンスも落ち着いた雰囲気で進められた。世の中の陽気な大学生像からはかけ離れている感じだ。むしろ安心した。どんな小説を書くのか、どんな本を読んでいるのか気になるところだ。
その数日後には授業が始まった。必修科目以外は、まだ履修登録前なので、自由に授業に参加し、履修するかを判断する体験期間といえる。気になる授業は出て、授業の雰囲気を見ていく。
「おはよー、駿河」
「また遅刻ギリギリですよ」
「んー……本読んでたら寝るの遅くなっちまった」
そう言うと桂さんは僕の隣の席にやってきて大きなあくびをした。桂さんは恐ろしいほどに朝に弱かった。いつも目が開いてるのか開いてないのかわからない表情でやってきて、僕と話すことでようやく起き始める。初っ端からやや不安である。
「そういや駿河は今日バイト休み?」
「そうですね」
「ならさ、晩ご飯一緒に食べようぜ」
「いいですけど、なんかあったんですか」
「なんもないよ。ただ毎日一人で食べてるとちょっと寂しくてさー」
寂しい……か。桂さんはきっと家族そろって楽しくご飯を食べていたんだろうことがわかる。
「お互い料理一品以上作って持ち寄ろうぜ」
「おもしろそうですね」
「じゃあ、駿河ん家集合ってことで」
「どうして即決で僕の家なんです」
「乙女の一人暮らし部屋に入ろうというのか」
「乙女……?」
「おい! ギャグでもきょとんとするなよ! 恥ずかしいだろうが」
「すいません」
「いや、その……単純に部屋が汚くて、とても人を呼べる状態じゃ……」
「まだ引っ越してきて半年も経ってないのにですか?」
「深くは訊くな! まぁ、そんな感じで。夕方六時くらいにそっち行くからよろしく」
帰宅してから、キッチンに向かう。急に食事会をすると決まったとはいえ、元々作るものは決めていた。鮭、春キャベツにたまねぎを冷蔵庫から取り出す。
「さて、作りますか」
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