第11話 決別と再会5

 数時間後、バイトを終え、交換したばかりの連絡先に「帰ります」というメッセージを送ると、すぐに返信が来た。

『お疲れ~! 荷物整理まったく終わらなかった笑 駿河ん家で食べていい?』

『いいですよ。ピザ、頼んでおいてください』

『了解~』

 本当に桂さんと再会したのだなと実感する。正直、忘れられているかもしれないと思っていた。僕だけがあの日のことを覚えていて、彼女に声をかけて無視されたら。大学入学早々心に傷を負っていただろう。でも、そんな心配はなかったな。


 帰宅し、部屋を軽く片付けていると、インターフォンが鳴った。モニターを見るとピザを抱えた桂さんが立っていた。

「どうぞ」

「おじゃましまーす。玄関からめちゃくちゃキレイにしてんだな」

「居心地は良くしたいですからね」

「ここまでキレイに出来る自信ねぇわ」

 桂さんは褒めてくれたが、僕の所持品がまだ少なく、服やカバンはクローゼットに、時計などの小物類はテレビ台の引き出しにすべて収納できているから、スッキリ見えているだけだろう。かといって、汚い部屋にはしたくないのは確かだから、この状態はキープしたいところだ。

 ローテーブルの上にピザを置く。そんなに大きいテーブルではないとはいえ、ピザだけでかなり場所を取る。

「僕も宅配ピザを自分で頼んだことはないのですが、なんか……大きくないですか?」

「Lサイズ買ったからな」

「Lサイズ……⁉」

 思わず声が裏返ってしまう。

「おう。二人で食べるんだから大きい方がいいと思って。ワタシの家、宅配は高いからって食べたことなくてさ。一度頼んでみたかったんだよ」

 スマホを取り出し、箱に書いてあるピザ屋さんの名前を検索し、メニューを見る。

「Lサイズで三人~四人前って書いてますが」

「お腹空いてるし、それくらいならいけるだろ?」

「そういうもんですかね……?」

 一抹の不安は覚えたものの、食べてみると生地が柔らかく、チーズも濃くて美味しい。帰る道中に買ったコーラをコップに注ぐ。

「引っ越しお疲れさまでした」

「おう。引っ越しってワクワクしたけど、家探しも荷造りも大変だし、今日から荷開けしなきゃならないし」

「荷開けが終わってからがスタートですからね」

 と言っても、僕はそんなに荷物がなかったからまったく苦ではなかったけれど。

「大学に入ったら、駿河のこと探そうって思ってたんだけど、まさか隣だとはな」

「驚きましたね」

「探す手間が省けた」

「文芸学科は総勢で四十人前後らしいので、探さなくてもすんなり見つかってたとは思いますが」

 それでもこうして会えたことは奇跡的だと思う。久しぶりに会ったのに、受験の翌日のようにタイムラグなく会話が弾む。これも彼女の持つ親近感のおかげなのだろうか。

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