第10話 決別と再会4
卒業式も終えた三月後半のある日、この日も起きて、出勤の準備をしていた。先日空き部屋となった隣の角部屋はもう新しい住人が決まったようで引っ越し作業が行われ、賑やかだった。
「出発する時にでも、ご挨拶しておかないと」
長い付き合いになるかもしれない。いつもより身だしなみを整えて、ドアを開ける。引っ越し業者の男女がせっせと荷物を部屋へ運んでいる。家主さんはどこだろうと周りを見渡していると、
「駿河?」
急に名前を呼ばれて振り返ると、そこにいたのは桂さんだった。ポニーテールはあの日と同じだが、制服ではなく、パーカーにデニム、スニーカーと動きやすいラフな服装。今年はまだ厳しい寒さが続いてることもあり、ダウンジャケットを上から羽織っている。桂さんは驚きながら僕の部屋番号プレートを指さし、
「もしかして、ここの部屋?」
「ええ」
と頷くと、桂さんの表情は一気に晴れやかな笑顔になった。
「安心した~! マジで隣人がイカツイ兄さんとかヤバイ姉さんだったらどうしようかと思ってたからさぁ! っていうか、駿河も合格したってことだよな?」
「ですね」
「よし! 連絡先交換しようぜ!」
スマホを取り出し、桂さんは手慣れた様子で僕と連絡先を交換した。
「そういや駿河、今からどっか行くのか?」
「バイトに行くんです」
「え! もうバイト決まってんの」
「早めに動かないと、この辺りは喜志芸学生ばかりですからね。バイト先取り合いになりますよ」
「マジかよ……。ワタシもさっさと探すよ。で、今日何時までなの?」
「夕方の五時までです」
「んじゃ、帰ってきたらご飯一緒に食おうぜ。今日、ピザ取ろうと思って」
「予定もありませんし、かまいませんよ」
宅配ピザなんて、実家では取ったことはない。こないだ卒業式のあとにクラスごとに行われたパーティーで食べたのが初めてだったな。
「帰って来る時、連絡くれよな。それまでワタシは荷物整理しとく」
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