第7話 決別と再会1
数週間後。僕は両親と対峙するように座り、こう言った。
「僕は喜志芸術大学の文芸学科入学を希望します」
母さんに見つかる前に、合格通知と入学案内の入っている封筒を郵便受けから回収できたのはラッキーだった。回収してからは通学鞄の中に入れていたが、もし見つかっていれば、破り捨てられていただろう。今も机には置かずに、胸に抱えている。
「なんでよりにもよって……」
母さんはテーブルに上半身を乗り出すと僕の頬を平手打ちした。メガネが飛んで床に落ちる。もちろん頬が痛いが、何度も平手打ちされてきているから、声も上げず表情にも出さない。
「学力も就職率も底辺の大学に入学するだなんて絶対に許さない! 母さんは絶対に!」
テーブルを何度も拳でたたきつけた後、白髪交じりの髪の毛をかきむしる。
「こんなの私が望んだ結果じゃない……! あなたはいつもそう。いつになったら理想を叶えてくれるの?」
僕は落ちたメガネを拾い上げながら言う。
「母さんが言う理想ってなんですか?」
「え……?」
「生まれてこの方、母さんの言うとおりに生きてきたと思います。何が不満なのですか?」
「あなたを後悔させたくないのよ。この世はね、賢い人しか安定した道に進めない、夢を叶えることさえ出来ないのよ?」
「僕の場合、この大学に入れないのなら、一生後悔を背負って生きるでしょうね」
「なによ……私はただあなたの幸せに生きてほしくて!」
「じゃあ、僕のどこが幸せだというんですか。勉強ばかりさせられて、自由を奪って。僕はあなたの人生をやり直すための道具じゃないんです。僕には僕の人生があります」
「私の……私の言うことが聞けないの⁉」
「ええ。もう聞くことはやめました」
メガネをかけなおして、椅子に座りなおす。
僕は震えていた。こんな態度をとって、何されるかわからない、平手打ち以上の体罰が待ち受けているかもしれないという恐怖があった。だが、言わないと、僕は一生を棒に振る。太陽の光を浴びることが出来ないまま、暗い地底で心も体も干からびて死んでいくのだ。この合格通知を手放すわけにはいかない。息を整えると、力強く言った。
「僕は喜志芸術大学にしか進学する気はありません。そして、僕は家を出て、二度とここに帰るつもりもありません」
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