2014年4月23日(水)

2014年4月23日(水)


母方の祖父が入院したと聞いた。

祖父はもう94歳である。

「覚悟する」という言葉が不謹慎な響きを持たない年齢だ。

入院先への道中、母親が言った。

「……父さん、夢に死神が出てきたんだって」

「──…………」

笑えない。

後部座席のうにゅほをバックミラー越しに窺う。

緊張しているのが、目に見えてわかった。

うにゅほが祖父と会った回数は、十指に満たない。

悲しくは、ないかもしれない。

不安ではあるだろう。

なにかが失われ、決定的に変化する予感。

底の知れないうねりのなかにいて、繊細なうにゅほがなにも感じないはずがない。

「──…………」

病室に着き、予感は確信となった。

死相があるとしたら、この祖父の顔がそれだと思った。

「……お、おお」

薄く目を開き、祖父がうめいた。

「──……!」

うにゅほが俺の袖を掴む。

優しく解き、手を握った。

震えている、気がした。

たぶん、俺の手も震えていたと思うから。

「とうさん……」

囁くように、母親が祖父を呼んだ。


──十分後、

「やー、よくきた、よくきた」

祖父は、お見舞いのいちごをもりもり食べていた。

単に寝起きだったというだけらしい。

「……先入観ってすごいな」

「うん……」

うにゅほと小声で言葉を交わす。

「しにがみとかいうから……」

「問答無用の説得力だったもんな……」

ともあれ、よかった。

ゴールデンウィークにまた行く予定だから、そのころにはもうすこし元気になっているだろう。

ロウソクは消える間際に──という言葉が脳裏をよぎったが、口にはしなかった。

いくらなんでも縁起が悪い。

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