2012年5月15日(火)

2012年5月15日(火)


ちょっとした手続きがあり、市役所へ行った。

今にも垂れ落ちそうな色合いの雨雲が空を覆っていたせいか、人影はまばらだった。

けっこう立派な建物だけに、寂寥感が尋常ではない。

書類に住所氏名を書き込みながら、意識は隣のうにゅほへと向いていた。

俺にはわかる。

うにゅほは、わくわくしている。

こういう場所は冒険心をくすぐるものだ。

「退屈なら、すこし遊んできてもいいよ」

顔を上げ、そう言った。

うにゅほはすこし驚いた素振りを見せたあと、

「いいの?」

と問い返した。

「二階は駄目」

探す範囲が広すぎる。

「はーい」

足取り軽く、うにゅほがその場を離れていく。

女性職員の「妹さんですか?」という言葉に、曖昧に頷いた。

手続きは十分ほどで終わった。

ホールまで足を伸ばすと、うにゅほはあっさりと見つかった。

テーブルを囲む四人の老婦人と話していたのだ。

前から思っていたが、異様に老人ウケの良い子だ。

当然のように飴を舐めている。

まあ、還暦も過ぎた御婦人方が四人も揃えば、その場に飴がひとつもないほうがおかしい。

うにゅほを引き取りに行って、見事に巻き込まれた。

御婦人方はデイサービスの利用者で、送迎待ちなのだそうである。

切れ目なく話題の推移するテクニカルな思い出話を無理矢理打ち切って、なんとかその場を後にした。

うにゅほは「もうかえるの?」と言わんばかりの表情を浮かべていた。

もうって……もう、手続き自体より長い時間、話を聞いていたからね?

うにゅほが老人から人気がある理由がわかった。

目を輝かせて自分の話を聞いてくれる相手に、好意を抱かないはずがない。

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