2012年4月5日(木)
2012年4月5日(木)
風も幾分か収まり、時折晴れ間が見えるようになった。
大した用事もなく車を走らせていると、視界の端を横切るものがあった。
小さな羽虫である。
ああ、春になったのだな。
昨日のような寒波が来たら、こいつ凍死するな。
「ほら、虫がいる」
信号待ちの際、うにゅほに指先で示した。
「ほんとだ!」
「まだ寒いのに、チャレンジャーだな」
車内が暖かいから、つられて乗ってきたのかもしれない。
信号が青になり、アクセルを踏み込んだ。
俺の視線が、左右に振れる。
視界を横断する羽虫が、ちらちらと目障りなのだ。
これくらいで運転に集中できなくなるほど経験は浅くないが、気になるものは気になる。
羽虫には悪いが、窓から外に出してしまおうか。
そんなことを考えていたときだった。
うにゅほがティッシュを引き抜き、ふつうに潰した。
「あっ」
「え?」
「あ、いや、別にいいんだけど」
「なんか、じゃまそうだったから」
「うん、ありがとう」
「……?」
案外、俺のほうが感傷的なようだ。
凍死どころか圧死を迎えた羽虫に同情すべきなのか、すこしだけ迷った。
でもあいつらでかくなるしな。
血とか吸うし。
うんざりするほど見るようになれば、そんなこと露ほども考えなくなるのだろう。
「うん、正しい」
数分ほど経ってからそう呟いたところ、うにゅほは不思議そうな顔をしていた。
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