2012年3月27日(火)

2012年3月27日(火)


犬が、元気である。

それはまあ、元気であるに越したことはないのだが、十五歳の老犬らしからぬバイタリティに戸惑うほどだ。

ゼンマイ式のおもちゃのように、そのうちパタリと倒れてしまいそうで怖い。

ケージの扉を開けるや否や飛び出して、俺とうにゅほのあいだを八の字に二回転ほどする。

そして玄関への道を一旦間違い、踏ん張りのきかないフローリングの廊下で滑りながら、外へ出る。※1

そうなれば、独壇場である。

リードを持つうにゅほをぐいぐいと引っ張り、散歩コースをひた走る。

うにゅほも押しに弱いものだから、引かれるがまま徐々に加速してしまうらしい。

初春を迎え、アスファルトが露出したため、滑って転ぶことはないにしろ、運動不足の身にはいささかきつい。

駆け足、駆け足、駆け足、深呼吸、駆け足、駆け足、糞を拾い、また駆け足。

うにゅほも似たような生活をしているくせに、息すらほとんど切らさない。

これが若さかと遠い目をしかけたが、よく考えると俺は、十代のころから既に体力がない。

人によりけりである。

帰宅して、犬のごはんを作る。

缶詰とカリカリを混ぜ合わせるだけの簡単なものだが、犬の反応は凄い。

尻尾を千切れんばかりに振り回し、両目をまんまるに見開きながら、鼻先をエサ皿に近づける。

食べはしないのだが、一応うにゅほが胴を押さえている。

スプーンを舐めさせたあと、ケージのなかにエサ皿を置く。

犬がエサをがっつくのを二人で眺め、軽く撫でてから部屋へ戻る。

あと何年生きるかはわからないが、今元気であることを喜ぼう。

なんて、口に出しては言わないけれど。


※1 何故か、絶対に間違う。

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