解き明かす者は学園都市で恋がしたい
いつきのひと
解き明かす者は学園都市で恋がしたい
特別学級が許せない。
協調性の無い子供達を受け入れるために用意された特別。
型にはめられないが故に用意される授業内容も特別。
調和と伝統を大事にしている私達普通の生徒に比べ、なにもかもが優遇されているじゃないか。
許せない。絶対に。
ただ特別なだけでも許せないのに、もっと許せない事がある。
食堂の食中毒事件の裏にあったメルベス講師による秘宝盗難未遂事件。
彼の不審さを見抜き追い詰めたのが特別学級の生徒達だったというのが許せない。
学園からの特別扱いに見合う働きをしてしまったのだから。
協調性の無い連中は、足手まといでなくてはならない。
爪弾きものでなければならない。
役立たずではなくてはならない。
何より許せないのが、魔法が使えないくせに委員長気取りで学級を支配するアサヒ・タダノが最後の最後に活躍してしまった事だ。
魔法が使えないくせに、一丁前に庇ったことで大怪我をしたという話。結果は因果応報であっても、そんな勇気を出してしまった事が許せない。あんな奴は最後まで打ちひしがれていればよかったのだ。
アサヒの弱みを握ってやる。メッキを剥いでやる。
人間は万能ではない。どこかに欠点はある。見つけてやる。その後どうするかは、見つけてから考えよう。
まず初めに知ることができるのは、同じ年代で唯一魔法が使えない不能者だということ。
それを踏まえて、強力な力を持つ者達が集う特別学級をまとめている事を考えると異常。
事あるごとに担任を好きだと発言しているという。
私達の教師が生徒に手を出したり違法薬品の売買したりで何度も変わっているのが示すとおり、学園の教師にはまともな人間なんて居ない。こんな学園の教師なんて皆総じてゴミに決まっている。
媚びを売って立場を得ているのか、それともあの担任に都合のいいように洗脳でもされているのか。
見た目の人種や命名規則から出身地は推測できるが、タダノという姓は聞いたことがない。親族の情報もない。
いつも制服。孤児だから持ち物がないのか。
調べてはみたものの、決め手と言えるものがない。
メルベス講師のように素性を偽って入学して仲間を増やそうとしているように見えるくらいだろうか。
周囲の認知だけでは足りない。
だから直接本人を監視することにした。
自室を出る時間は誤差十分程度。遅刻は入学以来一度もないらしい。
部屋での生活は至って普通の一人暮らし。騒音やゴミ出し等でのルール破りも無い。ゴミ袋の中身、食品の包装が妙に少ない。ああ、外食が多いのか。買い物のレシートなんかはそのままでプライバシー管理はあまり気にしていないようだ。生理周期の確認も、いや、あんなチビにそんなものが来てるわけないだろう。
小さいが故に歩幅が短い。身の丈には合わぬ大きな上着を着用している為か、他の生徒と比べるとより小さく見える。
「アサヒさん、おはよう!」
「おはようございます。」
友人でなくてもされた挨拶はすぐ返す。人当たりも悪いというわけではないようだ。
「……あれ何? 大丈夫なの?」
「あー、悪意はないようですので、放っておいていいと思います。」
ずっと尾行している私に気付いていながら、無視を決め込むとは。度し難いぞアサヒ・タダノ。
連れ添って登校した知人と別れ、玄関を過ぎたところで彼女を見失ってしまった。
気付かれていた。やはり逃げられてしまったか。だが案ずる事は無い。時間になれば必ず教室に現れる。
だが、授業が始まる時間はまだまだ先だ。こんなに早くから学校に来て何をしているのか。
そうだ。これだ。誰にも気づかれず何かをしている。
ここにヤツの弱みがある。違いない。
今日は誰もいない演習場の片隅に、アサヒが居た。
魔法が使えないというのに、一人前であるかのように杖を振り回している。
格好だけでも真似ているのだろうか。涙ぐましい。
異変はすぐに起きた。
演習場の地面が盛り上がって大量の土が噴き上がった。
力の流れを感じていたからわかる。これは魔法だ。誰かがあの娘を害そうと放った物か。いや違う。あの噴き上がりを起こした魔力は先程まで振るわれていた杖から放たれた。これは、アサヒ・タダノの魔法だ。
規模が少々大きい。これは一人で抑えるのも辛いのではなかろうか。いや、それよりも。私も巻き込まれるのでは?
慌てた私とは対照的に彼女は全く動じていなかった。それどころか、まっすぐこちらを見つめているではないか。
「後ろ! 土が!」
彼女は自身に覆いかぶさろうとしている大量の土を見ていない。あれは私にしか意識が向いていない。自ら巻き上げた土砂など認知の外なのだ。
だからつい叫んでしまった。許すつもりはない相手でも、こんな場所で見殺しにはできない。中身がどうあれ見た目は子供そのもので見殺しにできるほど非情でもなかった。
色々調べて回ったせいで、情が移り始めていたのかもしれない。
「ああ、大丈夫です。すぐ消えます。」
アサヒの言う通り、土砂は彼女の身体を飲み込まなかった。その場に到達する前に全部落ちてしまった。ただひとつ、ちいさな石を除いては。
油断の後、見事に直撃してしまった頭頂部を両手で抑えて涙目になっていた。
「今のは、君が?」
「はい、わたしが。」
偽りはあった。だが、魔法が使えないという噂のほうが偽りであった。
こうやって即答した状況を鑑みるに、誰にも言わない秘密ではないようだ。知る人ぞ知る、というやつだ。
とうとう直接本人から話を聞いてしまった。
毎日ではないが時々朝練をしているらしい。
魔法を使えるようになる魔法を用いて普通の魔法を行使しているという、少々意味がわからない表現もあったが。
別れ際まで礼儀正しかった。
特別学級の支配者は暴君ではなかった。
あれならば、身を挺してまで友人を庇ったというのも頷ける。
魔法を使えないというのが噂話の肥大化であるのなら、ただ怯えていただけという話もただの誇張なのでは?
疑うべきは本人でも特別学級の関係者でもなく、関与していない側のほうだった……?
より一層、興味がわいた。
落ち度を見つけて糾弾しようとする気は失せていた。特別扱いなんてもうどうでもいい。許そう。
特別学級には謎が多い。
関与するものとしないものでどうしてここまで評価に差が出てしまっているのだろうか。
解き明かしてやろう。彼らの名誉のためにも。
解き明かす者は学園都市で恋がしたい いつきのひと @itsukinohito
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