超越者
南之塔で激しい戦闘が繰り広げられていた。
アレナが放つ白色の砂の波状攻撃が上位精霊三体を苦しめる。
これ以上は魔力が足りなくなる。
上位精霊は召喚と使用で別に魔力を消費してしまうからだ。
長時間の仕様は魔力切れの危険が伴ってしまう。
上位精霊達を魔法陣へと戻して剣を構える。
明らかにロコクラスかそれ以上の魔人だ。
「ビア・ラクテア」
左腕に魔法でできた小盾を装備する。
「戯れにこちらに来てみたけど楽しいことになってきたわね~」
そう言ってアレナと名乗った魔人は南之塔の窓を見上げる。
「浮気だぞケイ! 我とのデートの約束はどうしたのだ?」
聞き馴染みのある声とともに、塔の窓が割れてロコが窓から舞い降りてくる。
デートの約束はそもそもしていないが、ここでロコが来てくれたのはすごく頼もしい。
「ねえねえ、ここ繋ぐの大変だったんだよ。ロコ、聞いてる?」
アルマが窓から顔を覗かせて言う。
「わかっておる。あとで我の分のクッキーもやるから」
「なんか納得いかないけど、まずはそこの魔人倒さないとだからあとででいいや」
アレナは先程から笑みを崩さず余裕を見せている。
「あら~ロコじゃない、元気にしてたかしら?」
ロコはアレナに気づくと険悪な顔をした。
「なんだババアか。我も丁度会いたいと思っていたところだ」
「アルーあれだしてー」
ロコがアルマの方を向いて頼む。
「おやつのクッキー増量で」
アルマは空中に向かって手を伸ばし魔法を行使する。
空中に紫色の魔法陣が現れる。
魔方陣から出た黒い何かが床に向かって勢いよく落ちる。
床に突き刺さったそれは、漆黒に輝く一本の剣だった。
「アーテルグラディウス」
ロコが静かな声で言い放つ。
剣が刺さった地面から影が辺りへと広がっていく。
しばらくして、影の形が細く長くなる。
それは生き物のように伸びていき、ロコの足元で止まった。
金属が擦れる音をたて、影から鎖に巻かれた剣が現れる。
ロコが剣に触れると縛っていた鎖は粉々になって消えた。
先ほど地面に刺さった剣はそのままで、剣からロコの足元へと伸びる細長い影も残っている。
「あら、あなたがそれを出すのなんていつぶりかしら。楽しみだわー」
目の前の異様な光景に対してもアレナは余裕を崩さない。
「ケイ、見ているのだ。我は今から少しだけ本気を出す」
そう話すロコの顔はいつになく真剣だった。
魔人とロコはしばらくお互いを見た後、アレナの攻撃を皮切りに戦闘が始まった。
ロコとアレナが飛ばす白と黒の斬撃が空中でぶつかり合う。
ロコが操る影は時に剣に時に鎖に変化し、アレナへと襲いかかる。
賢者の瞳を使うと吐き気を催すほどの視界の歪みが起こる。
魔人達の攻撃が建物の壁に当たるたびにガラスが擦れるような音が走る。
なんだこれ、どうなってんだ。
光のスペクトルが見えるだけでなく、それが水の中のように散乱し色々な方向に伸びている。
空中に伸びるその光は光源が不明で、地面から空中へと伸びる影と対を成すようにその場にあった。
到底理解のできない光景だったが、ただただ美しい。
南の塔が軋み始め、あちらこちらに亀裂が走る。
「あら残念。時間切れみたいね」
アレナは纏っていた砂を空中でまとめ、透明な球体を生み出す。
七色に離散していた光が球体に吸い込まれていく。
まずい、何かしてくる。
賢者の瞳がなくとも本能で感じ取れるような威圧感を放つ球体。
風が吹き荒れ電気が走る。
「また会いましょう」
アレナは光の球体から光線を放つ。
ロコとアルマが同時に防御魔法を展開する。
光線と魔法がぶつかり火花を散らす。
南之塔の内部の輪郭がおぼろげになり視界が真っ白になる。
瞬きをすればそこにはもう南之塔の跡はなく、アレナも立っていなかった。
魔王城の豪華絢爛な内装が目を奪う。
南之塔はアレナが作り出した空間だったってことか。
夢と言われても疑わないような次元の違う戦闘。
あっという間のことすぎて、リリーとエマが駆け寄ってくるまで時間が止まってすら感じられた。
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