第四章 学園編

意味が分からないんだが?

 魔人連邦会議での件から三日が経過した。

 アレナの襲来後も会議は予定どおり執り行われた。

 北方の未確認の魔人、魔人間の領土に関する問題についての議論が魔人たちの間で交わされた。

 さらに、四大魔獣とそれを守護する魔女に関しての調査報告と情報共有。

 世間話に見せかけ、裏では高度な心理戦や情報交換が行われていた。

 そうだ。

 俺はその場にいたわけではないので知らない。

 人に聞いたというか、魔人に聞いたというか、そこで寝そべっているロコに聞いたといったところだ。

「あのなあここはお前の家じゃないんだが。なあ、ロコ」

 当のロコはベッドに寝そべりクッキーを食べながら本を読んでいる。

「我の大事なファーストキスを拒み、その上デートの約束も放り出したケイは、宿無しの我を夜道に放り出すというのだな?!」

「キスも必要ない、デートの約束もしてない、ロコにはクレシエンテ家の家があるだろ!」

 ロコは不満げな顔をしながら、クッキーをポロポロ、いや、ボロボロこぼしている。

「我少しやりすぎてな。家を追い出された」

「どうやったら当主が追い出される状況になるんだよ?!」

「よいではないか。女子と二人きりで一晩一つ屋根の下。男なら誰でもあこがれるシチュエーションなのだろう」

「確かに安易にロコを部屋に入れてしまった俺に非がある」

 だけどな!

「だけどな! なぜパジャマと枕とクッキーと本と一週間の着替え、それとトランプ、チェス、魔道具の数々を持参されてんだよ!!!!」

「ケイ、違うぞ。そうか、お主にはまだ紹介してなかったな」

 そう言ってロコは棺の形をした魔道具を指さす。

 鞄大のその箱は紫色でまがまがしい装飾が施され、鎖でがんじがらめになっている。

 見るからにやばいのと、先にもっと突っ込むところがあるので触れないでいた代物だ。

 鎖が砕け、箱が開く。

 箱から出できたのは可愛らしい一匹のドラゴンだった。

 箱と同じく紫色で、猫ほどの大きさしかない。

 ロコは近づいてきたドラゴンをそっと抱きしめ頬ずりをする。

「こいつは我の親友のピピだ。見ての通りドラゴンだ。すごいだろ!!!!」

 もうなんかどうでもいいや。

 ロコのドラゴン、いや、ピピが、ロコに食べさせてもらっているクッキーを、ポロポロ、いや、ボロボロとこぼしているのを見て思う。

 ロコのかわいいピンクのパジャマ姿が見れたからいいか。

 しかもレースとかついてるフリフリのやつだし。

「ケイ、お主、少し気持ち悪いな」

 心を見透かしたようにロコがジト目でこちらを見る。

「いいか、そもそも夜に男の部屋で寝間着姿でいながら何もされず、何も言われないこの状況が異常なんだろうが! 多少何かを思うことぐらい好きにさせろ!」

「くっくっく。我が言ったのは我がかわいいならかわいいと正直に言わないところが気持ち悪いってことだぞ」

 ロコは腹を抱えて笑う。

「そもそも、ケイが何かするって何をするのだ? 我には分からないのだが」

 心底不思議そうにロコが俺を見る。

 そういえばものすごいピュアだったなロコって。

「まさか!?」

 ロコは赤面して俯く。


「あら、楽しそうね?」

 あ、詰んだ。

 俺はその瞬間、人生二度目の修羅場を経験した。


 十分に及ぶ弁明の後、エマには四肢を縛られる程度で許してもらえた。

 そもそもそこまで俺に非はない気がするのだが。

 拘束もしばらくして解いてもらえた。

 しかしなぜか今、この部屋に四人の魔人がいる。

 ロコ、エマ、リリー、アルマ。

 そしてこれまたどうしてか五人でトランプをしている。

 意味が分からない。

 ベッドで寝ころびながら、隣の机で楽しそうにゲームをする美少女魔人たちを、ただ茫然と眺めていた。

 

 あと、ピピはすごく俺になついた。

 今も俺の腹の上で丸くなって寝ている。

 俺の指を甘噛み、いや、噛みながら寝ている。

 これは甘噛みなのか?

 俺は流血する右人差し指の痛みから逃げるように眠りについた。

 

 本当に、意味が分からない。

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異世界転生でスキルなし魔力なしだったんだが!? ある日出会った美少女魔人は魔力が多すぎると死ぬらしい 魔力をキスで供給され、最高&最強な件 rapipi @rapipi

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