砂漠の刹那Ⅱ

 マグルは目をこすりながら周りを見渡す。

 まだ寝ぼけているようで、脇には枕を抱えていて水色のパジャマを着ている。

「とうさま~。もう昼なのですか~?」

 数日前に決闘した相手とモンスターの上で目覚めるのは不思議な感覚だ。

 というか寒い。羽毛にくるまろう。

 雲の上を飛んでいるらしく、吹き付ける風は冷たい。

 日の光が雲海を照らし、白い海が果てしなく続いていて地上は見えない。

 ゴオオと激しい風の音がするのでかなりの速度で飛んでいることがわかる。

 とりあえずマグルのことは置いておいて、そのほかの状況を整理しよう。

 賢者の瞳を使い魔法を使用した後に残る魔力痕を見る。

 魔力痕は通常は見えず、このようにスキルなどを使用してみることができる。

 魔力痕か、なつかしいな。

 魔力のないころは魔力のこめられた器具を使ってしか見ることができなかった。

 思い出にふけりながら体全体を丁寧に見ていく。

 腕と足を見ると赤色の魔力痕があり、あざのような痕はロープで縛られたかのようにぐるりと一周ついている。

 空気中には金色の魔力痕のかけらが飛び散っている。

 昨日は確か三人が帰った後すぐに寝た気がする。

 よくよく考えてみれば三人が朝俺と同じベッドで寝ているわけがないんだった。

 魔力痕と現在の状況を合わせると考えられることは限られてくる。

 王国の者がおそらく寝込みを束縛魔法で拘束。

 エマとリリーが俺の最低限の安全のために結界をはり、時間がたって結界が消え、その時に飛び散ったかけらが魔力痕となったのだろう。

 現状把握はとりあえずまあできた。

 急展開すぎてまだ混乱しているところがあるが。

 特に目の前のやつとかね!

 なんの不手際だよ。

 貴族の息子が国家転覆罪の疑いのかけられた人間と同じところにいるとか。

 人質上等かよ。

 もうなんか考えるのやめて景色でも眺めていよう。

 雲の海はいつのまにか晴れ、砂丘が地平線の彼方まで続いている。

 飛んでいる鳥の高度も下がり、地面に大分近づいているようだ。

 やばい。ちょっとわくわくしてきた。

 生まれて初めての冒険。

 砂漠というのもゲームとかで少しレベルが上がってから行けるようになる中級者マップみたいで良い。

 えっとこの鳥はいつ着陸するのかな?

 よくみると右側にオアシスがあるのが見える。

 まさかね?

 鳥は頭を上下に振りながら巨大なくちばしを開く。

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「水だ!」と言っているようにしか俺には聞こえなかった。

「いやまて絶対着陸やば―――」

 おそろしいスピードで鳥は急降下を始めた。

 オアシスの池へと向かって一直線に降りていく。

 俺は必死に羽毛にしがみつく。

「マグル! 何かにしがみつけ!!」

 寝ぼけていたマグルの眠気は吹っ飛び、ものすごい形相で羽毛を握りしめる。

 着水する!

 水しぶきとともに滝のような轟音をたて、鳥は入水した。

 次の瞬間、俺とマグルは頭から水をかぶっていた。

 

 数分後、俺は悪態をつくマグルを横目に服をまくってしぼっていた。

 オアシスの近くに止めてあった馬車から男が一人出てくる。

「なんかすごい音がしたと思ったが。お前らやっと着いたのか」

 明るく響く声で話しかけてきたのは、よく日焼けしたこげ茶の肌で体格が良く、愛想のいい顔に少しひげを生やした金髪の男だ。

 腕の筋肉は見事で、上は短い袖の服に下はズボンといった軽装備だ。

 腰には剣が携えられ、そのほかにもナイフや小物入れがベルトにつけられている。

 目は黒色で、両側を刈り上げた髪型はその人に似あっていた。

 かっこいいな。

 三十代半ばに見えるその男は風貌もさることながら佇まいもどこか堂々としていた。

 いや俺の前世と全然違うな。

 これが陽キャというやつか。

「俺はデゼルト。国王の命でここヴェステ砂漠の調査をしている」

 デゼルトは手を差し出して握手を求めた。

 俺は彼の手を握る。

 ごつごつとした彼の手は自分のよりもひとまわりほど大きく握る力も強い。

 俺と握手を交わした後マグルにも手を差し出す。

 マグルは手を差し出さず、黙ってその場に突っ立っている。

「確かウォルグ家の。よろしくな」

 マグルはデゼルトさんを睨みながら口を開く。

「あんたが俺を誘拐したんだろう。早く父親のもとに返せ」

「残念だが保護者の了承は得ている」

「そんな……」

 よほどショックだったのだろうか、少し離れたところで地面の砂をいじり始めてしまった。

「それでデゼルトさんは何を調査しているんですか?」

「主に遺跡の調査や生態系についての研究、最近だと魔人についても調べてるな」

 俺が倒さなくてはいけない砂塵の魔人のことだろうな。

「君は魔人について知っているか?」

「まあ、なんとなくは」 

 魔人のことはあまり知らない。

 いつも周りに何人か魔人いるんですけどね。

「魔人には国家公認の魔人、非公認の魔人、国家と敵対する反逆の魔人と呼ばれる者の三つに分かれている」

 反逆の魔人にあたるのが砂塵の魔人というわけか。

「それで遺跡はどこにあるんですか?」

 オアシスの周りを見渡しても砂漠が広がっているだけで、少し遠くになると砂煙で何も見えない。

 変だな。砂漠で風が吹いている。

 飛んでいる時には砂煙は見えなかったはずだけどな。

「遺跡については夜になってからのお楽しみってことで」

 そう言ってデゼルトさんはニッと笑った。

 


 

 

 

 


 

 

 

 

 

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