まじで「ざまあ」なんだが

 リリーとロコ、オルソと出会った次の日、また俺の変わらない日常が続くと思っていた。

 しかし、そんなことはなかった。

「私がお弁当を作ったんだからあなたのはいらないわ」

「あんたこそ余計なお世話よ」

 バチバチと朝から火花を散らしているのはもちろんエマとリリーである。

 比喩ではなくこの二人は

 今二人がやっているのは『魔人じゃんけん』。

 石、ハサミ、紙を魔法で具現化し、じゃんけんをして勝敗を決める。

 ただし普通のじゃんけんと違うところは七種類の属性の中から一つ属性を選び、自分の出した物に付与することだ。

「じゃんけん、ぽん!」

 二人で声をそろえて出した物はハサミ。これで三度目のあいこだ。

 属性の相性も光と火でまったくのあいこ。

 具現化したハサミは空中でぶつかりチリチリと音を立てて火花を飛ばす。

 どちらが自分が作ったお弁当を俺に食べてもらうかで勝負は始まった。

 でも、なんというか……。

 果たしてこれは本当にハーレムなんだろうか。

 結局両方の弁当を食べることを俺が提案し、その場はひとまず収まった。

 

 学校に着き、歴代の校長の肖像画がかけられた廊下を歩く。

 何故だかわからないが初代校長の肖像画は一枚も残っていない。


 剣士育成学校は剣士を育成する学校として、百五十年前当時の初代国王レーデル・                ガルメティウスによってエレジア王国に造られた。  

 王の言葉に「剣は魔法よりも秀で、拳は剣よりも秀でる」という言葉がある。

 つまり、魔法に頼るだけでなく、鍛錬を怠らないことこそが大切なことだとされている。

 だからこそ、王は剣士を育成する学校を造った。

 

 現在、王の意思は受け継がれず、魔法で優劣を決める方針となっている。

 教室に着いてすぐに、俺は次席でノートを開き、印字魔法を使っていた。

 書き出されるスキルの数々に目を見張っていると急に机を蹴られる。

「おいおい、印字魔法を使ってんのか。印字するスキルなんてほとんどねえだろ」

 ノートを拾い、顔を上げるとそこには黒髪の男が立っていた。

 こいつの名はマグル・ウォルグ。貴族の家の生まれで火属性の魔法を得意とする。

 くせ毛にいかにも高そうな漆黒に深紅の装飾が施された服を着ている。

 俺はマグルに初めて出会った時、いやな予感がしていた。

 相手は貴族の息子で上位魔法を容易く使うことができる。

 一方、こちらは魔法が使えない、いわば無能な落ちこぼれ。

 この二人の差があるうえで、マグルが俺をイジメないわけはなかった。

「なあ、雑魚のくせに無視すんなよ」

 どうやら考えごとをしている間、話しかけてきていたみたいだ。

 俺はノートを閉じ、袖をまくって腕の火傷の跡を魔法で消した。

「なんだよ。何か用あるのか?」

 俺はマグルのほうを見る。

「なんだお前雑魚なのに魔法使えるようになったのか?」

 こいつ、一度絡まれると面倒なんだよな。

「ああそうだよ。用はそれだけか?」

 正直絡まれると面倒くさい。

「なあ、今日の放課後俺と決闘しろ」

 教室中の視線が俺に集まる。それもそのはず、俺のクラスは魔法がほぼ使えないか使えても下級魔法程度であり、マグルの発言に驚かないわけがない。

「いや普通に無理だけど」

「は?」

 こういう展開はマンガやアニメで死ぬほど見てきたのでトラブルになる前に避けるのが正解。

「なに断ってんだ? これは命令だぞ」

 いや、断ると更なるトラブルが……。

 ああそうか。絡まれた時点でトラブルは避けられないのだ。

 だとしたらもうすることは一つ。

「わかった。放課後中庭で」

 実力を証明するしかない。


「はー? あんたが勝てるわけないじゃない!」

「今のケイは魔力もスキルもあるから負けないわ」

 相変わらず二人とも元気だな。

 エマとリリーが作ったお弁当を食べながら二人を眺める。

 昼食休憩の時間になった瞬間に、二人は俺のもとに駆けつけてきた。

 お弁当を開けながら朝の出来事を二人に話し、今に至る。

「それにしてもそいつクソむかつくわね。一発ぶん殴ってやろうかしら」

 魔人の一発はどれだけ強いのだろうか。

「リリー、それはやめなさい。退学になりたくないでしょ」

 校内での暴力は決闘以外禁止だしな。

「やるならもっと徹底的にやらなくちゃ」

 え? エマさん? 何言ってるんですか?

「ゴ・ルジクエナ・デモネストを使うの」

 いやいや響きがやばすぎる。

「いや! その話をしないで! 思い出したくないわあれは」

 どうやら魔人のリリーでさえもトラウマになるレベルのものらしい。

 魔人が恐れるものとか想像がつかないがとにかくやばいことはわかった。

「エマのバカ。もうそのことは忘れてたのに」

 エマは震えるリリーの頭をなでる。

 何があったのか、見ない間に二人とも名前呼びになっている。

 なにはともあれ二人が打ち解けているみたいでよかった。


 放課後、中庭を囲む校舎にはたくさんの生徒が今か今かと俺とマグルの決闘を待ち望み、窓から顔を出している。

「てっきり来ねえと思ったぜ。ボコボコにしてやるよ」

 マグルは不敵な笑みを浮かべながら腰に下げた剣を握る。

「行かなかったら面倒だから。それに色々と試したいことがある」

 マグルは剣をゆっくりと鞘から引き抜き、かまえる。

「さあ、試合開始といこうじゃねえか」

 俺はそっと懐から短剣を取り出しかまえる。

「いくぜ! 魔力の根源よ主の望みを叶えたまえ フレイムレインフォースメント」

 マグルの剣が赤く輝く炎を纏う。どうやら剣を強化する炎魔法のようだ。

 こちらも始めるか。

「魔力の根源よ主の望みを叶えたまえ アイシクルヴァイン」

 地面から蔓状の氷が現れ、マグルに向かって伸びていく。

「炎に氷とか馬鹿だな」

 マグルは氷に斬りかかる。

 しかし、蔓は斬れないどころか氷すら解けない。

「はあ? ふざけんなこんなんで負けてたまるか!」

 蔓はマグルの体に巻き付き、マグルを氷漬けにしていく。

「雑魚のくせに‼ マジで覚えと――」

 マグルは歯をむき出し俺を睨みながら氷塊に閉じ込められていった。

 束の間の沈黙が訪れる。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 校舎が揺れるかと思うほどの歓声が中庭に鳴り響く。


 他の生徒に取り巻かれるのが面倒なので、俺は魔法で家に転移した。

「まあ、当然よね」

「最初は勝てるわけないって言ってなかった~?」

「私とエマが魔力供給したんだから負けるはずないわ」

 まず目に入ったのは、優雅にクッキーを飲み紅茶を飲むエマとリリーの姿だった。

「なんで普通に俺の家にいるんだよ」

「まあまあ。ケイもクッキー食べなよ~」

 どうやらエマも上機嫌のようだ。

 まあ別に二人がいることは嫌ではないのだが……。

 そりゃオスとして色々と問題があるわけで……。

 理性との戦いになるのかとため息をつきながら椅子に座る。

「あいつなんか一生氷漬けでいいのよ」

「流石に明日解きに行くわ」

じゃないのか。お主、どえすというやつだな」

 声をする方を見るとロコがベッドで寝そべりながらクッキーを食べていた。

「お前、いつの間に?! というかその言葉どこで知った? あとこぼれるからベッドの上はやめてくれ」

 思考速度強化で変にどうでもいいことに一瞬で頭が回るな……。

「じょういまひんはこぼさあいのだ」

 いや普通にこぼしてますけどね。

 風魔法でゴミ箱にかけらを運ぶ。

「なんであんたがまたここにいるのよ!?」

「小娘また我と戦うか?」

 ロコが挑発的な笑みでリリーの顔を見る。

 よく見る光景だな。

 今朝と同じように、今度はロコとリリーが魔人じゃんけんをしている。

 そんな光景を横目に見ながら、俺はクローゼットから服を取り出す。

 焦げて穴が開いたり布がボロボロの服を、修復魔法を使って直していく。

 マグルに報いが返ってきたことはまじでスッキリする。

 まあマグルの俺に今までしてきたことはなくなるわけではないが。

 今まで耐えてきたことで今日があると思うと、本当に良かった。

 明日、マグルに言ってやろう。

「ざまあ」と。


 剣士育成学校を建設したかの国王はこう言った。

「剣は魔法より秀で、拳は剣よりも秀でる」

「だが、何よりも秀でるのは己の意志なのだ」






























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