かなりの修羅場なんだが!?

「あのーこれはどういうことかな~?」

 エマはにっこりと俺の方を見て言う。

「すいませんでしたー」

 ここは謝るしかない。

「はー!? あんた他にも魔人が知り合いにいたの?」

「そうだよ。だからリリーとキスするのはすごい抵抗があったと言うか……」

「あんた、それを先に言いなさいよ!」

「いや、ドア破壊してきたし魔人は魔力のためすぎで死ぬんだろ?」

「まあ、そうだけど。ばっかじゃないの!?」

 リリーは顔を真っ赤にして言う。

「本当に二人には悪いと思ってる。ごめん」

 俺は頭を下げる。

「でも、私たちが急に押し掛けてしまったのも悪いわ。あなたを魔力のはけ口として使っているのだし」

 エマが庇うように言う。

「わ、私は許さないから!これからもキスしてくれるなら許すけど」

「わかった。これからもそうするから」

「ならいいわよ」と言い、

「でも、お互い初めてがよかったのに……」と付け足したようにリリーが言った気がするが気のせいだろう。

「そもそも、二人ともなんで俺なんだ? 他に人間なんていくらでも」

「私たちが魔力を送ることができるのは転生者だけなの。この時代は特に転生者が少ないらしくて」

「なるほど。でもよく俺が転生者だとわかったな」

「転生者は魔力が全くないからすぐわかるの」

「魔人は『賢者の瞳』をみんな持ってるわけだな」

 魔力をスキルでわかるなら、転生者かどうか判断するのは簡単だろう。

 けれども、転生者にまずは会わなくてはならないとなると、大変そうだ。

「私は、知り合いに何人か転生者はいるわ。でも、あんたが良かったの」

「それってどういう……」

 俺が聞こうとすると、廊下から誰かが走ってくる音がする。

 足音はだんだんと近づいてくる。

 エマとリリーの後ろで止まる。

 見るとそこには少女がいた。

 紫色の長髪に、髪の左側に三つ編みがしてある。

 右目は髪で隠れ、ヘアピンが目の下の位置に交差してとめてある。

 目は黄色で、満面の笑みを浮かべている。

 歳は、エマとリリーよりも幼く見えた。

「我は上位魔人ロコ・ルーナ・クレシエンテ! 」

「ロコ様!?」

 エマが驚いたように言う。

「エマ~。エマもきておったのか。あとストロア家の護衛の小娘ではないか」

「なんでクレシエンテ家の当主がいるのよ? まさか、あんたもこいつに用があるんじゃないでしょうね?」

「クックックッ。そのまさかだ。我はそいつに魔力を供給しにきた」

「はあ? ふざけないでよね。これ以上こいつは魔人と関わらなくていいの! 帰りなさいよ!」

「あなたそれは……。ロコ様は当主なんだからあんまりそういうこと言うのは」

 エマが慌てて言う。

「ほう、小娘。我を止めてみたいなら止めてみろ」

 ロコがにやりと笑う。

「ロコ様も落ち着いてください」

「あんた、口を挟まないでよね。私はストロア家の護衛の中ではいちばん強いのよ。 勝てずともこいつを止めることぐらいはできるわ」

 エマは自信げに言う。

「わかったわ。私もロコ様にここを通られるのは、例えどんな関係であれ嫌だわ。助太刀する」

「別にあんたなんか助けてもらわなくても大丈夫なんだから」

 この状況どうするんだよ。

 あ、そういえばロコに賢者の瞳を使ってみよう。

 あれ、おかしい。

 賢者の瞳を使おうとすると目が勝手に閉じる。

 スキルを使おうとする度、強制的に目が閉じられているのだった。

 何度やっても上手くいかない。

 測定不能ってことか?

 この相手、やばすぎる!

「同時に止めるわよ!」

「うん!」

「魔力の根源よ主の望みを叶えたまえ 主を全ての災いから守れ リオエスクド!」

 声をそろえ、二人は言った。

 光の盾が二人のまえに現れる。

「なるほど、勝てないとわかって防御に徹するのはなかなかよいぞ」

 ロコはにやりと笑い、歩み寄る。

「だが、相手が我でなければの話だが」

 盾に向かい、人差し指と親指を曲げて輪のようにして繋ぎ、人差し指をはじく。

 デコピン!?

 ガラスが割れるような音ともに盾は破壊される。

「もう、こうなったら!」

 リリーは腰につけた剣を握る。

「やめてリリー! 魔人同士の戦闘は条約で認められてないわ」

 エマが止めようとする。

「いや、よい。何をしたところで傷ひとつ我につけることはできないのだからな」

 ロコは笑みを浮かべる。

 ほんと、ただの子供にしか見えないのにな。

 無邪気に笑うその姿は上位魔人とはとても思えない。

 リリーは剣をぬく。

 刃は見事なまでの金色で、柄は深紅で金のドラゴンの装飾が施してある。

「太古より生まれし七つの剣の一つよ 研ぎ澄ませ金色の剣 今こそ敵を穿て アウルムグラディウス!」

 剣はさらに金色に光り輝く。

「くっくっく。おもしろい。太古の魔剣を持っているとは」

 どうするんだよこの状況!





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