魔力が人を越えているんだが!?
健康診断を終え、俺は家で椅子に座り昼食を食べようとしていた。
手元のパンはさっきから口に運ばれることもなく、何度も持ち上げられては皿に落ちていた。
穴があくほど見たその結果用紙を見る。
健康診断の結果、人間のもてる魔力量ではなくなっていた。
正直信じられない。
まあ、原因は……。
大体心当たりあるのだが。
というかそれしかないのだが。
原因は、この前のキスをしてきた美少女魔人だろう。
やっと考えがまとまり、夢じゃないことがわかった。
そうなると、途端に沸いてくるのが喜びである。
「よっしゃああああああああああ!」
部屋の中で大声で叫ぶ。
これで俺は騎士になれる。
俺は本を開き、ペンを持つ。
そして、印字魔法を使う。
印字魔法は自分の持っているスキルを書き出すための魔法だ。
使うと自分の手が勝手に動き、入手済みのスキルを書き出すことができる。
『炎、水、光、闇の上級魔法 賢者の瞳 硬質化 聖霊召喚 思考速度強化』
「まじかあ!」
習得には三年かかり、十分な魔力量がないと使うことができない上級魔法。
敵のスキル、魔力量などの情報を見抜く
『賢者の瞳』
体を鋼鉄のように硬くする
『硬質化』
本来、魔法陣を必要とする聖霊召喚を魔法陣を必要とせず、かつ、無詠唱で行うことのできる
『聖霊召喚』
常人の何倍もの速度で脳を働かすことのできる
『思考速度強化』
これらは魔力量だけでなく、高い技術も必要とするはずなのだが。
魔人の力、すごすぎる!
突然大きな音がする。
ドンドンドン。
誰かがドアを叩いているようだ。
「はいはーい」
俺はドアを開けた。
そこには少女が立っていた。
腕を組み、仁王立ちをしている。
髪は見事なまでの金色のツインテール。
紅の瞳に細い体。
赤に黒のワンピースを着ている。
まるでトランプの中から出てきたような服だった。
ところどころチェック模様になっている。
胸には黒いリボン、頭には赤いリボン、背中には赤と黒の大きいリボンがつけてある。
どれもこの少女でなければ絶対に似合わない。
なぜなら彼女はものすごく可愛かった。
「あんた、私とキスしなさい!」
少女はいい放つ。
はあ?
この前に続き今日もまた魔人が来たのか?
「間に合ってます」
俺はすかさずドアを閉じる。
さすがにここでキスしたらエマに悪い。
ドアがミシミシと音をたてる。
バキッという音ともにドアがこじ開けられる。
「ちょっと話ぐらい聞いてもいいじゃない!?」
「いや、ドアを破壊する奴と話せると思えん」
「あーこれ、これはあとで直すからまずは話を聞きなさい」
少女は右手にもっていたドアだったものを壁に立て掛ける。
「私の名はリリー・ラズベル。魔人よ!!」
「へーそうか。それで何の用なんだ?」
「ちょっと待ちなさいよ! ここは驚くところじゃないの?」
リリーが驚いたような顔をする。
「だって私魔人なのよ! ちょっとは驚いても……」
リリーは首をかしげる。
「まあいいわ、とにかくあんた私とキスしなさい!」
あーやっぱこのパターンか。
「いや、俺そのいるから」
どうすればいいんだ。
「いるって何が?」
彼女?
いや、エマはそんな関係じゃないし。
どう説明すればいいんだよ。
「いいからあんた、こっち向きなさい!」
リリーは強引に手で俺の顔を向けさせる。
「いや、ちょっと待って。こんなとこ誰かに見られたらまずいだろ」
やばい、もし誰か来たらめんどくさいことになる。
「わ、私、こういうの初めてなのよ。だ、だからありがたくわたしと。キ、キスしなさいよ」
リリーは頬を赤らめながら言う。
さっきの自信は消え、緊張が伝わってくる。
やばい、俺もドキドキしてきた。
そうだ、これは魔人には不可欠な行為なんだ。
だから、浮気とかそういうわけではない。
いや、断じてない。
そもそも、魔力のはけ口になると約束しただけだし。
思考速度強化によって、俺は瞬時に考えることができた。
リリーは俺の顔に顔を近づける。
一生懸命、背伸びをしている。
ダメだ、リリーのことを避けることはできない。
かといって自分からもいけない。
なるようになれ。
俺は目を閉じた。
唇に柔らかい感触がする。
少したち、リリーが唇を離した時に俺は目を開けた。
えええええええ?!?
赤くなりながらもじもじと恥ずかしがるリリー。
その後ろには……。
にっこりと笑っているエマがいた。
いや笑っているようでものすごく怒っている。
空気の震えというか、そういうのが伝わってくる。
や、やばい!!!
「あら、楽しそうね?」
あ、詰んだ。
俺はその瞬間、初めて修羅場を経験した。
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