5-2 デンファレの向かうところに
デンファレの頭の上を滑空しながら飛んでいるバッドビッグはその目でデンファレを様子を見ていた。
デンファレも相手の様子をみていた。くるくると頭上を旋回しているだけで攻撃してくる様子はない。このままでは剣が届かない。彼女は相手が自分の来ないとわかっていて、攻撃されるのを待っているかのような動作に感じ始めた。そう思うと、馬鹿にされているようで腹が立ってきた。
「水よ、火よ。突き抜けなさい」
彼女がそう唱えると、彼女の周りに、二十ほどの水の球が生成される。それは徐々に楕円になり、その先端が細くなっていく。棘と言ってもいいくらいに細くなると、それらは一瞬にして氷となった。そして、その氷柱たちは一斉に魔獣へと向かって跳んでいく。
この通路は路地であり、相手が飛んでいても、自由に動ける範囲はそこまで広くない。その状態で逃げ場が無くなるように飛んでいく氷柱を相手は躱せるはずもなく、ほとんどの氷柱が相手に直撃する。そのまま、魔獣は翼もやられて、地上へと落ちていく。
地面に固いものがぶつかった音が聞こえ、魔獣が地面に叩きつけられたのが理解できる。デンファレはそのまま倒れていてほしいと思ったが、魔獣はゆったりと起き上がる。翼は中途半端に広げられていて、ところどころが凍り付いているようだった。そして、ダメージを負わせたのは、翼だけではない。水玉模様のように、体の一部が氷ついているのが見えた。たとえ、戦闘の本能があってもその状態で通常通りに戦えるはずがない。デンファレもそれをわかっていたが、剣で攻撃することはなかった。
「風よ。貫け」
彼女の前に、風が集まり、不可視の槍を作り出す。それは彼女が手を前に出すと同時に魔獣へと向かっていく。魔獣は見えない刃を感覚で感じていたが、それを躱せるだけの能力は今の魔獣にはなかった。そして、その風の槍が魔獣の顔から胴を貫いた。見た目には穴はないが、確実に体を魔法の槍が突き抜けたのだ。それを耐えるだけの能力を持つ者はいない。魔獣はその場にぱたりと横たわった。
「勝った……。トールがいなくても勝てた」
そのことが誇らしかった。トールにそれを報告したくなるが、近くに彼はいない。彼女はすぐに目的を思い出す。カロタンを見つけて、無事であることを確かめたい。彼女はすぐにカロタンの家に向けて走り出した。
(デンファレはどこに言ったのでしょうか)
トールは見失ったデンファレを探して、パニックになった人々の間を縫って、彼女を探していた。既に何十分と彼女を探しているのだが、彼女を見つけることが出来ていない。路地に入った可能性も考えて、路地を探したが、すぐには見つからなかった。
「どこに」
彼がデンファレを見つけられないのも無理はない。彼は一般的に人が行きそうな場所から探している。そもそも、この街に来たばかりで、知っている場所など少ない。そのはずで、彼はデンファレが移動する場所の検討が付かなった。彼はデンファレが知っている場所は中央の通りにある店の立ち並ぶ道だけだと思い込んでいる。他に思いつく場所がなかった。そして、路地に入って探していた時に、初めてロトや不良たちのいた広場にいる可能性を思いついた。これだけ時間が経っているのだから、ロトを心配してあの広場に行く可能性を完全に排除していたが、思い返せば、デンファレがそんなことを考えているはずがない。彼女が走っていったのは、ロトが倒れていると思ったからかもしれないのだ。
「馬鹿ですね、本当に」
再び、目星がつくと彼は広場へと走っていった。
結果から言って、広場にいたのはあの不良たちだけであった。彼らはトールには睨むだけで何も言うことはなかった。そして、そこにロトがいないことも確認できた。
(次は、カロタンの家でしょうかね)
不良たちには何も言わずに、路地を移動して、カロタンの家を目指す。
トールがカロタンの家が視界に入ったとき、デンファレは何かと対峙しているのが見えた。彼女の服はボロボロだ。歯を食いしばって、何とか倒れないでいると言った様子。
トールは魔獣と戦っていると思って彼女の元へと急ごうとした瞬間、相手が魔獣でないことに気が付いた。
「おうおう、ロト。どうだ、俺が連れてきた魔獣は、強い相手が欲しかったんだろ」
「お前、誰だ?」
「忘れちまったのかよぉ~。俺だよ、俺。カウホンだよ」
「は? あいつはそんな姿じゃねぇよ」
ようやくトールがデンファレたちと対峙しているものの姿が見えてくる。その姿はミノタウロスと言った言葉が似合いだろう。牛の顔に真っ直ぐ上へ伸びた角。筋骨隆々の体。そして、彼はその相手を知っている。
(カウホンとは。まさか、生きているとは思いませんでしたね)
カウホンは邪神の使いの一人であり、他の使いと戦ったときには最弱の使いと呼ばれていた。人に化けて、人を殺していた卑怯な奴だ。
「お久しぶりですね。カウホン」
カウホンはその声に振り返った。
「な、なぜ、貴様がいるんだ……?」
「いえいえ、それは偶然なのですがね。と言うか、貴方は死んでも学ばなかったようですね。馬鹿は死んでも直らない。ヴィクター様の言う通りでした」
トールは心底うんざりしたように、相手にそう言った。
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