3-5 獣人の国、入国
デンファレのどや顔はともかく、あの単調な行動の多い魔獣ではあったが、彼の予想より簡単に勝てたことに驚いていた。それは全く、表情に出ていないので、デンファレはどや顔をすぐにやめて、彼に歩いて寄っていく。
「……ねぇ、少しくらいほめてくれても良くない?」
「さて、貴女の名前を教えていただけますか」
デンファレの話は完全に無視して、助けた獣人に話しかけた。デンファレが助けなければ、見殺しにしようとしていた人とは思えない程、柔らかい態度と声で、獣人にそう訊いた。デンファレは話を無視されたことよりも、自分が助けたのにまるでトール自身が救ったみたいな態度がかなり気に入らなかった。もちろん、トールにはそんな気はない。それどころか、魔獣を魔法なしで討伐したことに多少感心していたほどだ。そんな二人の関係が全く分からない獣人はトールの質問に答えた。
「私はカロタンと言います。助けてくださり、ありがとうございました」
綺麗なお辞儀をして、二人に礼を述べた。彼女の背はトールやデンファレの腹辺りまでしかないため、二人は子供かと思っていた。しかし、その言葉だけで、それが勘違いだとトールはわかった。長く生きていれば、それだけ積み重なる経験がある。それは戦いでなくとも同じだ。そして、その積み重ねが彼女の所作から見て取れたのだ。デンファレはそんなことはわからないので、未だに子供だと思っていた。
「それで、お礼をしたいのですが、よろしいでしょうか」
トールはこれは願ってもないチャンスだと思った。人の紹介があれば、人間の国の時のように揉めて中に入れないという自体は回避できる可能性が高くなる。カロタンがどれだけ信頼を得ている人なのかわからないが、デンファレと二人で門を叩くよりは格段に、入りやすいだろう。
トールはすぐに彼女の問いに頷いた。デンファレは特に何も考えずに、トールと同じように頷いた。
「では、参りましょう。こちらです」
カロタンが歩き出したので、二人はその後ろに付いて行った。
獣人の国も人間と同じように、国の周りを壁で覆っていた。この国の壁も傷ついて、ボロボロの部分が沢山あった。門の前には橙色の体毛を持った猿の獣人と、黒い体毛の犬の獣人がいた。サルはバンダナに左側を出すように袈裟掛けした服とダボダボのパンツを着用していて、犬はそれと正反対の全身鎧を着ていた。二人は門の前に立ち、ぼうっとしているようにしか見えない。
「こんにちは。ただいま戻りました。門を開けていただけませんか」
「……あぁ、カロタンさん。今開けますよ。ってその方たちは?」
カロタンが犬の獣人に声を掛け、猿の獣人に開けるように頼んでいる。その間に、犬の獣人が二人について聞いた。カロタンは二人の素性は知らないが、助けた貰った経緯を離した。彼はそれを何度か相槌を打って話を聞いて、話を最後まで聞くと、最後に一つ大きく頷いて納得しているようだった。
「それなら、入国しても大丈夫ですね。さ、お二人とも、どうぞ。ようこそ、獣人の国、アニマナイズへ」
犬の獣人が、二人を中へ入るように、掌を門の中へと向けた。サルの獣人は二人に頭を下げている。どうやら、歓迎されているらしいということが分かった。トールはこんなうまく話がまとまったことが怪しくて、何にと言うわけではないが警戒する。デンファレは歓迎されていることをそのまま受けて、カロタンの後ろについて、疑いもなく、彼女に付いて行った。トールはデンファレの暢気さが今日だけは羨ましいと思った。何も考えず、歓迎を受けることは彼には全くできないからだ。
アニマナイズの中は道はレンガが地面にランダムに並べられていて、建物は白系統のレンガでできているものが多いようだった。街中を行く人たちは皆、バラバラの容姿だった。どの人も何らかの動物をモチーフにしているようだった。馬に牛、猫など、様々な獣人がいるようだった。
門の正面の大きな道の両脇には果物や花、肉や野菜を箱に入れ、外に並べている場所が多くあり、それが店であることには簡単に気が付く。その中には、その場で肉を焼いているや野菜などを焼いていたり、果物をすりつぶして、ジュースとして売っている店もあった。その店が並ぶ道の先には一際大きな家、と言うより城がある。あれがこの国の王様がいるところだろうと簡単に予想がついてしまった。
「私の家は、こちらです」
カロタンは道を曲がる度に二人の方へと振り向いて、手で示して案内した。丁寧な案内がデンファレには少し面倒に、トールには好印象を残した。そのまま中央の通りを外れて少し歩くと、彼女が立ち止まった。
「こちらが私の家です。どうぞ」
他の建物との違いは無く、白系統の明るい色のレンガで作られた家で、二階建てのようで、外からも二階に直接行ける階段が作られている。ドアは木製だが、ドアには隙間がある。外から中を見ることはできず、通気性があるような作りだ。そして、彼女がそのドアを開けて、二人に中に入るように勧めた。
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