3-4 VSブリットカプレ
トールの言うことを聞かず、デンファレはヤギの魔獣と対峙する。トールは近くに寄ってきているものの、彼女に手を貸そうとはしていない。腕を組んで、彼女と魔獣を視界に入れているだけだ。
デンファレは相手と睨みあう。どちらとも動く気配はない。魔獣は攻撃するタイミングを伺っているようだったが、デンファレに関しては動けないというのが真実だ。攻撃されたらガードして、カウンターを入れる。剣を使っての技術はそれしか知らないのだ。
デンファレは一応、魔法も使うことも頭に入れていたが、剣の腕も磨きたいと考えていた。そのため、魔法はできる限り使わないようにしようと考えていた。
トールは開幕から魔法を使えば、少しは有利に戦えるだろうと考えて、静観していた。しかし、いつまでも経っても、彼女は魔法を使わず、相手の攻撃を待っているかのように剣を構ているだけだ。
「デンファレ。剣だけで勝てる相手ではありません。魔法も使いなさい」
そう言われた彼女は、素直に頷くようなことはなかった。トールはまだ、子供扱いしたことを怒っているのかと思った。そのため、それ以上何を言っても無駄だろうと、口を閉ざす。しかし、実際に彼女が素直に頷かない理由は、彼がこの後ろにいる獣人を見殺しにしようとしたことだ。だから、彼女は意地でも一人の力で、この魔獣に勝って、獣人を助けるつもりでいた。
(見てなさい! 一人でも戦えるんだから!)
心の中で、見返してやろうと闘志を燃やし、戦いに臨む。その決意を察したのか、魔獣が動き出す。直線的な動きの突進だ。動き自体は目で追えるが、それでも速いと感じるほどだ。このまま避けなければ、魔獣の角が彼女の腰の辺りを貫くだろう。
それは彼女も理解していた。そのため、すぐに後ろを向いて、兔の獣人を持ち上げ、走った。直線的な動きしかできない魔獣はその行動でも十分に攻撃を回避できた。そのまま、彼女はトールの元へと走る。
「お願い。絶対に守って」
トールが何か返す前に、彼女は魔獣の方へと近づいていく。トールは彼女のその真剣な目を見たことがなかった。いつもドジを踏む彼女と同じ人物だとは思えないほどに、真剣な瞳だった。
(仕方ない。これでデンファレも強くなるかもしれませんし)
託された獣人を自分の真横に置いた。
「そこから動かないでくださいね」
獣人はその言葉に頷きだけで返して、理解を示した。
「さぁ、かかってきなさいっ」
剣を片手で持ち、その剣の先を魔獣へ向けた。戦闘が始まってかなり経っているが、彼女の宣戦布告であった。
魔獣はその挑発を理解していなかったが、魔獣は再び突進を始める。彼女はカウンターを狙うのは難しいと気がついていたが、それでも剣術はそれしか知らない。適当に振るった剣は大したダメージにならないのだ。それなら、まだカウンターの方がダメージが入りそうな気がしていた。
実際はあまりそのダメージに大きな違いはない。カウンターが決まれば、攻撃直後で防御態勢に慣れないということが原因で、ダメージが入りやすいというだけだ。そして、彼女の持つ剣は、彼女の女神の力の大きさと比例するため、その剣の力は現在は大したことがない。つまりは、どんな攻撃方法でも、与えるダメージに変化がほぼないということであった。
そんなことを知らない彼女はひたすらカウンターを狙う。突進を避けて、その胴に剣を叩きつける。何度か外してはいるが、確実に攻撃を当てていた。魔獣にも着実にダメージが蓄積されているのか、動きが鈍くなる。ドジでも女神である彼女の体力は一般的な人間よりも多い。このまま同じ動きをすることは造作もないことだろう。そして、それを続ければ勝てるのだ。
しかし、デンファレはそれでいいと思っていなかった。単調な動きの連続で飽きてきていたというのもある。攻撃を受ければ消滅するかもしれないというのが、意識されていないのだ。その結果、彼女はカウンター戦法を止めた。
魔獣が突進する前に近づいて、剣を振るう。ドジの彼女でも魔獣の正面は危険だと理解していると見えて、彼女は側面に位置し続けるように移動して、攻撃を続ける。突進を封じられた魔獣は戸惑っているかのように、頭を揺らしていた。デンファレは自身の勝ちを確信した。このまま攻撃を続ければ勝てるのだと。そして、それは油断となる。その瞬間、彼女の頭に衝撃が伝わった。意識が一瞬、手放される。意識が戻ると同時に、腹部に強い衝撃。すぐに体を確認する。彼女の体には穴は開いていなかった。魔獣を見ると魔獣は彼女に背を見せている状態だ。デンファレはすぐに状況が理解できた。後ろ足で蹴飛ばされたのだ。そして、魔獣と距離との距離が開いている状態。次に来るのは、と彼女はその場を飛びのいた。遅れて、魔獣が突撃してきたのだ。
「あ、危なかった。油断した、ほんとに」
彼女はすぐに立ち上がり、再び側面に移動して攻撃を打ち込む。今度は魔獣の動きに注意して、攻撃をする。その結果、頭に食らった衝撃が魔獣の顔面の攻撃であることが理解できた。身を低くして、攻撃する瞬間に顎辺りを後頭部に落とされたのだ。こんな些細な動きで死にそうになったのかと思うと、油断した自分に腹が立った。それをありったけ、魔獣にぶつけた。そして、最後はその胴を剣で貫いた。それはしっかりと留めになって、剣を抜くと魔獣はその場に倒れた。
デンファレはボロボロになりながらも、トールの方を見て、どや顔をした。そしてこういった。
「どーよっ。私も少しは強くなってるのよっ」
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