3-3 子供扱い
人間の国の入り口の扉の前には、先ほどとは違う兵士が立っていた。兵士は二人とも、どこか疲れた様子で猫背でボケっと立っている。その状態で魔獣に襲われれば、負けるのは必然だろう。
しかし、先ほどデンファレが起こしたトラブルをあの兵士二人が聞いていないはずがない。デンファレの見た目もトールの見た目も特徴的であるため、人相書きが無くとも、すぐにわかる。そして、それをトールは理解していたが、デンファレは理解してなかった。さらに、彼女は人が違えば、反応が違うかもしれないと考えて兵士二人に近づこうと歩き出した。
彼女のその軽率な行動を、すぐにトールがその腕を引いて止める。焦ったせいか、彼女の腕を掴む手に力が入ってしまったが、トールはそれについては気にしないことにした。
「痛っ。って何よ。あの人たちなら話を聞いてくれるかもしれないじゃない」
「はぁ。そんなわけないでしょう。私たちの顔や格好は既に覚えられているはずです。そして、次は問答無用で殺されるかもしれませんよ?」
トールは呆れて、額に手をやりながら、彼女に言い聞かせた。彼女は彼の言うことを理解できないわけではないが、どうにも力で伏せられたような感覚があり、仏頂面でそっぽを向いた。トールは特に、デンファレの機嫌取りをするわけでもなく、獣人の国の位置にあたりをつける。
三国を結べば、三角形になるのだから、位置は簡単にあたりをつけることが出来た。トールはデンファレの腕を掴む力を弱めたものの、掴んだまま歩き始めた。まさか、そんな状態で歩かれると思ってなかったデンファレは地面に躓いたが、転ぶことなく、トールに助けられて、自立した。
「なんなのよ、もう」
「いえ、私が歩き始めたら、そのまま人間の国に行くかもと思ったのです。それなら、引っ張っていった方がいいかな、と」
「付いて行くわよっ。引っ張られなくてもね!」
謝りもされず、それどころか、子供のような扱いをされることに腹を立て、大声を上げる。トールはその行為自体が子供じみていて、やっぱり引っ張って行こうかな、と考えていた。彼女に怒鳴られても平然と歩き出したトールに、デンファレは一瞬だけ歩かないという方法で、抵抗したものの、彼に止まる気配はなく、仕方なくデンファレは彼に付いて行くしかなかった。
草原をしばらく歩き、獣人の国に近づいていくと、草原からごつごつした岩が出てきた。草も少なくなり、岩場が多くなる。獣人の国への道は少しだけ険しくなった。ただ、いきなり大きな亀裂があり飛び越えなくてはいけないとか、大きな山があって登らないといけないとか、そう言った険しさではない。多少、辛くなるというだけで、デンファレも特にそれに文句を言うほどではなかった。彼女が文句を言いたいのは道ではなく、トールにだった。あの、腕を引っ張られたとき以降の会話の数は零。すたすたと歩いていくトールに付いて行き、隣に並んで何か話しかけようとするたびに、まるでデンファレに興味がないかのような振る舞いで会話できる空気を壊す。
(何よ。私は女神なのに。少しは元気づけるとかしてくれても良くない?)
「デンファレ。少し止まってください。あそこ、何かいます」
不機嫌なまま、彼が示す方向に目を向けた。そこには魔獣がいた。そして、その魔獣の前には人型の獣人らしき人影があった。
その魔獣はヤギのような四足歩行の魔獣で、大きさは人間の腰当たりに頭があるくらいの大きさだ。体毛は白く、ストレートであるが薄汚れていて、白い体毛が台無しだ。そして、ヤギとは違い、その頭には物を突き刺せるくらい前に真っ直ぐ伸びた角があった。頭を突き出して突進すれば、装備の無い人間などは簡単に貫かれるだろう。
「早く助けないと。あの獣人、殺されるわ」
「いえ、囮にして獣人の国に行きます。貴方はあの魔獣に勝てないでしょう。無駄死にになりますよ」
トールは口を動かしながら、魔獣と獣人の様子を見ていた。人間でも追いつめられれば、限界を超えた力を使えることがある。あの獣人も本当に生き残りたければ、自力で何とかするしかないのだ。ヴィクターもデンファレに言っていたように、一度だけ助けても、本人のためにならない。
そう考えて、デンファレに言った言葉だったが、デンファレはトールが言い終わる前に飛び出していた。
「大丈夫? 私が助けてあげるわ」
デンファレは座り込んでいた獣人の前に立った。そして、剣を構えて、ヤギの魔獣、ブリットカプレと対峙する。
その獣人には長い耳が生えていた。白く長い耳だ。兔の獣人だとすぐにわかるほど特徴的な耳を持った獣人は彼女の登場に唖然としている。その顔には未だ、恐怖はあるものの、驚きの方が勝っているように見えた。獣人は緑のチェック柄のシャツに、オーバーオールを着ていた。元は綺麗だっただろうに、土や草で汚れしまっている。ただでさえ小さい体が、座って縮こまっているのでさらに小さく見えるが、これでも成人している大人であった。
「全く。話を聞くこともまともにできないのですか、貴女は」
トールが出てきたことで、兔の獣人は彼の方に視線を向ける。目の前の女の人より、男の人の方が頼りになりそうだなと、先ほどまで危機に晒されていたことを忘れて、そう考えていた。
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