4 アニマナイズ

4-1 カロタン家

 家に入ると、そこにはカロタンと同じような見た目だが、彼女より背の小さい兔の獣人が二人座っていた。二人の背も違い、背の高い方はテーブルの上で木を削っているようで、もう一人の小さい方は特に何かをしている様子はなく、しいて言えば、木を削っているのを見ていると言った様子であった。


「あ、おかえりっ。お母さん!」


「……え、お母さん」


 今更ながら、デンファレがそんなことを言った。トールはそんなところだろうと予想していたので、驚きはない。


「ええ、はい。私はこの子たちの母です。兔人は成人でも私くらいの背丈の人は多いですよ」


 カロタンはデンファレの発言に特に気にした様子はなく、いつものことのようにニコリと笑っていた。


「あ、ご、ごめんなさい」


「いえ、人間やエルフの方でも知らない人も多いので、お気になさらず。ほら、二人ともご挨拶して」


 カロタンが二人に声をかけると、少し警戒した様子で、椅子に座っていた二人が立ち上がった。そして、二人の正面に立って、デンファレと目を合わせた。


「あたしは、キャルと言います。よろしくお願いします」


「俺はロト」


 キャルが大きい方で、ロトが小さい方だ。キャルもロトもカロタンと瓜二つだ。白く長い耳が特徴的。違うのは大きさと服装だ。キャルはワンピースのような形の布を一枚着ていて、ロトは黒い無地のシャツに黒いジャケットのような布を着ていた。キャルは真面目な雰囲気があるが、ロトはどこかダルそうな様子で二人に挨拶していた。


「ロト、ちゃんと挨拶いないとダメよ。ほら、もう一回」


 そんなダルそうな挨拶をした、彼をキャルが窘める。少しの間、面倒くさそうな顔をキャルに見せたが、根負けしたのか、彼は再びデンファレに顔を向けた。


「俺はロトと言います。よろしくお願いします」


 言い終わると、キャルは満足そうな笑顔でロトを見ていた。デンファレはそんな二人を見て、いい姉弟だなと感じた。そして、自己紹介をしてもらったので、次は自分たちの番だと、彼女は二人に視線を合わせるようにかがむ。


「私は、デンファレ。でこっちの青いのがトール。私の仲間よ」


「紹介に預かりました、トールと申します。どうぞ、よろしくお願いします」


 トールはデンファレの紹介に文句も言わず、最後には丁寧にお辞儀をして見せた。デンファレもその様子に少し驚いたが、子供の前でまであの態度ではないのだと思った。意地悪なだけではないのかもしれないと、彼女はトールのことをもう少し知りたいと、この時初めて思った。


「それで、お母さん。お二人とはどこで? 人間族はこの国にはいないですよね」


 自己紹介を終えると、キャルはカロタンに訊く。今のところ、素性不明の二人組である。


「お二人は、魔獣に襲われた私を助けてくださったのですよ。それで、お礼をしたくて招待させていただいたのです」


「なるほど。ってお母さん大丈夫なんですか」


「ええ、お二人が守ってくださいましたから」


 母の笑顔にキャルは安心したのか、肩から力が抜けたのが見て取れた。そして、キャルは再び、デンファレに向かいあった。デンファレは首を少しかしげて、どうしたのかという仕草をする。


「あの、デンファレさん。母を助けてくださりありがとうございました。本当に、ありがとうございました」


 深々とお辞儀をして、深い感謝を彼女に伝える。それがデンファレには伝わった。


「いえ、襲われていたところに出会えてよかったわ。助けることが出来たもの」


「デンファレさん。俺も感謝します。ありがとう、母を守ってくれて」


 二人の感謝が、デンファレにはくすぐったかった。今までも直接感謝を受けたことはない。彼女にとって、感謝の証は貢ぎ物だ。しかし、それを貰うよりも嬉しくて、心が温かくなるような感覚だ。彼女はその衝撃に、二人に反応が返せなくなっていた。


「デンファレ。大丈夫ですか」


 トールがそれを知ってか知らずか、彼女の肩を叩いて、目を覚ます。


「しっかりしてください。それともあの程度の魔獣で、疲れたのですか」


「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけよ」


 トールは彼女が何に驚いたのか全く理解していなかったが、特に興味もなかったので、放置することにした。


「デンファレさん。トールさん。椅子に座って待っていてください。今、夕食を作りますから」


 カロタンは二人が断る間もなく、その場から去った。そして、キャルがデンファレとトールを椅子へと座らせた。二人は抵抗することも無く、そこに座っている。デンファレは未だにお礼を言われたことが嬉しくて、その顔は緩んだままだ。


「キャル姉ちゃん。少し散歩してくる」


「今?」


「じゃ、ちょっと行ってくるよ」


 キャルの話も聞かず、ロトは家から出ていった。デンファレもトールも彼を視線で追っていたが、特に何も言わなかった。

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