第314話 少女たちの去就
この世界での諱のルールは、前世中国のそれと違うようです。前世では諱を呼ぶのは家族以外はダブーでしたが、この世界では姓と組み合わせれば許容されるようです。いやそれって普通にフルネーム呼びですよね。日本人で例えると、徳川家康のことを徳川家康って呼ぶのと同じです。ほら本人に面と向かって毎回わざわざこう呼ぶ人っていないじゃないですか。しかし女性には
さて、そんな
ちなみにあの2人は「あの子たちは思い切りのいい性格をしてますから、もうこの世にいないはずです」と姞游が言っていました。そんな重い話をさらっとしないでほしいです。もっとこう、遠回しに言うとか‥‥ありますよね。聞いているこちらもショックが大きいです。
「働く以前に、8人全員が自殺願望持ちという現状を何とかすべきだと思いますが」
「そうですよねー‥‥」
今、後宮の食堂で、あたし、子履、そして
「料理を希望しない人は皿洗いをさせるとか、何とかして全員厨房にとどまらせることは?」
「皿洗いは実際の職場に慣れさせたり、本物の仕事道具に触る緊張感を育てたり、そばにいる料理人の技を盗ませたりするためのものなので‥‥厨房には他にも見習いがいるので彼らの仕事を奪うことになります」
「では厨房の床の掃除は?」
「料理中に掃除しても邪魔なだけですし‥‥」
「料理は諦めさせて、
「確かにあたし1人では荷が重いですが、かといって8人は多すぎます」
困りました。8人を塊にするには、扱いが難しいです。そうやってあたしも子履も首をひねっていると、及隶がさりげなく手を挙げてきました。
「
「あてはあるの?」
「文字の読み書きの教育係になってもらうっす。最近は葛や食料で大忙しで文官の人数が足りないっす。さらにこれから商の人口が増えることも考えると、戦力は早めに増やすにこしたことはないっす」
なるほど‥‥及隶は本来はあたしの身の回りの世話をする担当ですが、最近は葛の併合だとか食料だとかで文官の数が足りず、文官経験のある及隶も駆り出されているのでした。どうりで最近あたしの身の回りにいることが少ないと思ってました。
「教育係なら出張も少ないだろうし、あたしたちも見張れるね」
「それでいきましょう」
あたしと子履は二つ返事で、8人を及隶に任せることにしました。ただ、あまり無理はさせないでくださいね。つらいと感じてしまうとすぐ自殺しかねない、爆弾のようなものですから。爆発しないよう丁重に扱ってほしいものです。
◆ ◆ ◆
さて‥8人の到着を待つ及隶は、後宮の裏の人気のない場所で茂みに隠れていました。
「本当にやるのか?あいつらを」
「ああ」
及隶の後ろには、
「あの8人は、瀕死を経験したわけではないが死に非常に近い存在で、死のイメージがほぼ正確にできている。魂の入れ替えには適しているだろう」
「それで8人の精神を乗っ取って、どうするつもりだ」
「適当なタイミングで
索冥は考えました。確かにこれは
「悪くない手だ。で、そいつらはいつ来る?」
「そろそろだ」
果たして8人は、他に誰も連れてくるなと言われていたので本当に8人だけで、芝生の生えた指定の場所で立ち止まって周辺をうろうろ見ています。
その8人を遠目に見て‥‥及隶は小声で呪文を唱え始めます。
「な‥なんだか気持ち悪くない?」
8人の誰かが気持ち悪そうに体を震わせています。
「わ、私も‥」
「あ、脚が動かない‥」
「頭が痛い‥」
まだ呪文は途中ですが、うまくいっている様子です。体が動かないように8人を拘束したうえで、次の呪文が本番です。入れ替えるべき魂を冥界から呼び出し‥‥。
「ちょっといいかな」
意図しない声がかかります。上!後宮の屋根から、ぴょんとその少女は大きくジャンプしてきました。着地した彼女は体勢を整えると、さっと腕を内から外へ横に振ります。同時に8人の少女たちは「ああっ」と悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちました。
髪の毛を三つ編みにした少女は、そこへ歩み寄ります。
「うちは
「部下‥‥ですか?何をするのですか?」
「ああ。ちょっと闇夜に消えて世界を救うタイプの仕事かな」
地味な外観には見合わない派手な口調を聞いて、8人の少女たちはお互いの顔を見合わせます。姞游が前に進み出ます。
「恐れ入りますが、私達は及隶さまにお仕えすることになっていて、そのようなお願いは‥‥」
「これはお願いではない。命令だ」
同時に、嬀穣の背後に炎が現れます。本物の炎ではありません。でもそれが嬀穣の背後を神々しく照らしています。
炎にあてられた8人の少女たちが、もう一度尻もちをつきます。
「き、及隶さまのことは陛下が決められたことなので、あなたの部下になるのなら今一度陛下と相談を‥‥!」
「陛下にはうちのほうから話をつけておくよ。君たちはこれから死ぬところだった‥‥と言っても信じてもらえないか。もう一度言う。これは命令だ。拒否することは許されない」
8人はみな全身を硬直させて、ただただ嬀穣だけを見つめて震えていました。
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