第238話 履4年正月の宴
というわけで
あたしと
といっても、20歳未満はお酒を飲んではいけないという前世の法律がどうしても頭をもたげさせます。法律というか、子供はお酒禁止という常識としてすっかりできあがってしまっているのです。子履も外交の付き合い上必要に迫られた場合以外は絶対に所望しません。でもこの世界では小さい子供でも普通に酒を飲みますし、実際にあたしの隣りに座っている
あたしの手元には、ただの水が置いてあります。毎年そうです。自分の国ですし問題はないでしょうし、たとえ
及隶は体だけ見れば5歳児くらいで、もちろんあたしよりずっと低いんですけど、全然酔っ払っている様子はありません。年をとっても成長せずそのままって、なにかの病気なのでしょうか、それとも体質なのでしょうか。及隶ってつくつく不思議な生き物です。
「
及隶とは反対側の隣に座っている
「はい、あたし、酒は苦手でして」
「義姉上もいずれ
そう言って、
「何か問題でも?」
「子亘様、毒とかは入れてませんよね?」
「義姉上は失礼な人ですね。将来の后に毒を盛るような王族はこの国にはいません。自分が嫁ぐ国を貶めるようなことは言わないでください」
いや、あなたが貶めるようなことしてるから聞いてるんですが。子亘が睨んでくるので、あたしは「はいはい、飲みますよ」と言って、小さい猪口を口につけます。さすがは度数の低いお酒です。ただの水‥‥というわけにはいきませんが、我慢できる程度の味です。
すると子亘がくいっと近づいてきて、あたしにささやきます。
「あなたを義姉上と呼ぶのは屈辱ですよ。姉上はずっと私のものですから。うっ!?」
子亘が突然顔を真っ青にして手で口を抑えます。
「‥‥痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!しびれる!しびれる!痛い痛い痛い痛い痛い!!」
椅子から転げ落ちますので、あたしは仕方なく介抱します。やっぱり毒入れてたなこいつ。
家臣や役人たちが集まってきて一通り騒いで子亘を搬送してしまったあと、あたしたちはまた席に戻ります。はぁ、子亘も飽きませんね。と思ったら、くいっとあたしの視界に白い塊が入ってきます。
「義姉上、再会を祝って今朝心を込めて作りました」
子亘のひとつ下の妹にあたる
宴会はまだ続いています。いや王族である子亘に毒が盛られたら中止するだろ普通。毒盛ったの子亘自身なんだけどな。みんなもそのことを分かっていて宴会を止めていないのでしょうか。分からない。
◆ ◆ ◆
三年の喪の間の宴会も十分忙しいと思っていましたが、それが明けたあとは想像以上でした。最初の1日が終わっても、翌日、翌々日、いろんなところに引っ張られます。あちこちに連れて行かれます。あたし絶対今年だけでもう地球一周するくらい歩いてますよ。誇張ですけど。正月は疲れます。今年の年末は筋トレしておくべきだと思いました。
ですが今月の中旬にある物産展の準備のために忙しいのです。それを言って、やっとはなしてくれました。子履の三年の喪が終わった直後の正月のおめでたい気分が続いている今の方が盛り上がる(あわよくば子履と初デート。できなくなったけど)と思ってこの時期を選んだのですが、正月の宴会がこんなに忙しいのならもうちょっと後ろにずらすべきだったかもしれません。
さて、正月のある日、あたしは朝から夕方までずっと部屋にこもって書類を書いていましたが、暗くなってくると腕をくーっと伸ばします。そういえば今日、ほとんど体を動かしてないです。ずっと椅子に座って、トイレも我慢して最小限しか行ってませんでしたし。
もうすぐ夜ですけど気晴らしに散歩でもしますか。
あたしは
後宮の前には、庭というには広すぎる起伏のある草原が広がっています。といっても極度に広いわけではなく、屋敷全体を囲む柵は向こうの方に見えます。
しかし建物といいこの草原といい、すっかりヨーロッパですね。自分が着ている服にさえ目をつぶれば、ここはフランスやスイスと言われても不思議ではありません。
ん?
あれは、あたしがさっきまで仕事していた1階の部屋ですね。
よーく見れば、その1階の部屋の窓の下に茂みがあるのですが、その中に誰かがいそうな気がします。
ふと気になって、あたしはおそるおそるそこへ近づいてみます。すると従者が気づいたようで、「私が見に行きます」と言って2人走り出しました。すぐに、茂みの裏にいる人を見て何か察したらしく、片方がため息をつきながら失笑しています。
何事かと思ってあたしも寄ってみますが‥茂みの中でしゃがみながらくっすり寝てしまっていた少女は、あたしにとって見覚えのある人でした。
「
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