第186話 官民ともに幸せになれる政治
亡命を画策している家臣たちが「
さて、珍しく朝廷に出席した
「今年の食料事情はさらに厳しくなり、
「そんなもの、燃やしておけ。燃やすことで暖がとれるだろう」
報告をした役人は引きつった表情を浮かべて、それが見えないように顔を大きく下げて「以上です」と言い残すと、逃げるように持ち場に戻ります。誰も突っ込みませんが、今年特に飢えに苦しむ人が多いのは、夏后履癸が朝廷をさぼっていたために家臣たちの政策を決裁できなかったのが一番の原因です。
ついで他の役人が報告にあがります。
「この
「分かった、全部集めてこい」
「全部は‥周辺都市の民の分もございますので」
「面倒だな。適当に集めろ」
「はい」
こんなやり取りももういつものことです。
「申し上げます」
「おう、なんだ、羊辛か」
「確かに周辺都市から食料を集めるときは、それぞれの都市の民の分を考慮すべきと言われます。しかし実はその必要はありません」
「というと?」
「草です。備蓄がなければ草があります。それを食うように言っておきましょう。そうすれば備蓄食料はすべてここへ運び込めます」
「そうか、なるほど」
数ヶ月前から、羊辛が頓珍漢なことを言うようになったのです、
關龍逢はその場で夏后履癸を止め、この日は事なきを得ました。しかし最近の羊辛は
◆ ◆ ◆
そんなある日、夏后履癸と妺喜はお忍びで斟鄩の街を散歩していました。さそおいしい
それを見て妺喜は「不快じゃ。帰るのじゃ」と言い出します。夏后履癸も煮えきらない気持ちで妺喜と一緒に帰ります。
その翌日、珍しく朝廷に出た夏后履癸は、家臣に尋ねます。
「斟鄩の大通りに粗大ゴミがいくつも転がっていたのだが、掃除は誰がするのか?」
「はい」
と、
「少し前まで大通りはきれいだっただろう。だが昨日はそうではなかった。なぜきれいにしていないのだ?」
「今年だけで飢えに苦しむ平民が急増し、処理が追いついていません。我々は、生死を慎重に判断したうえで
「つまり生きているものも一緒に掃除すればきれいになるのだな?」
「それは人の道が許しません」
「そんなものは全員殺せ」
「それはできません」
2人が言い争いしていると、妺喜が横から夏后履癸にささやいてきます。
「陛下、騙されるでない。こやつはわざと大通りに死体をばらまき、国が乱れているように装い、陛下に言うことを聞かせるか何かをたくらんでいるのじゃ」
「偶然だな、わしも同じことを考えていた」
と言って夏后履癸は由子道を見つめます。「そんなことはありません!」と由子道は大声で否定するものの、夏后履癸は「こいつを鋳腑に処しろ」と怒鳴ります。
「お待ち下さい」
と、一歩踏み出しかけた關龍逢よりも先に
「由
「うるさい。わしは今、こいつがわしに逆らったという話をしているのだ。こいつはなまげてわしの評判を下げようとしているのだ」
「しかし‥」
「さがれ」
夏后淳維はそれ以上は言いませんでした。由子道は兵士たちに引きずられ、鋳腑に処されました。ついでに由子道が人質として出していた親も一緒に殺されました。
さて由子道のいなくなった朝廷で、夏后履癸は代わりの役人に命令します。
「道で寝転がっている人は全員殺せ。いちいち刺すのが面倒なら火を使ってもよい。ちょうど雪の日が続くのだから、それで暖がとれるだろう。その場で燃やせば街の人も喜ぶだろう。わしらも気持ちよく大通りを歩けるだろう。これが官民ともに幸せになれる政治というものだ」
「は、はい」
役人はそそくさと、逃げるように大広間を出ていきました。大通りに転がっている死体や飢えで瀕死の人たちは全員その場で燃やされました。瀕死の人の中には悲鳴をあげてのたうち回る人がいたので、役人はその人の火を消してすぐに夏后履癸に報告しました。役人は人質に出していた親と一緒に鋳腑で殺されました。夏后履癸は「この寒い日に熱い鉄で温まれたのだから、あいつらもさそ満足だろう。わしは優しいのだ」と言い、かたわらの妺喜が「陛下、好きなのじゃ」と腕を抱いていました。
◆ ◆ ◆
夏后履癸が朝廷に出るたびに必ず誰かが死んでいきます。せっかくの新年だというのに、
關均はまだ成年しているとは言い難いですが、分別のついている人です。ちなみに關均の父で關龍逢の子にあたる人は人質として提出されたため、正月であろうがこの場に来ることはできません。
「妺喜様が悪いと思うんだ」
酒を飲みながら(※この世界では未成年飲酒禁止などの決まりはない)、2人きりの客間で岐倜は吐き捨てるように言いました。
「確かに‥妺喜様が来られてからおかしくなった気はします。来られるまで、鋳腑のような残酷な刑罰はありませんでしたし、三族皆殺しが連続で起きるようなこともめったにありませんでした」
關均も同調します。「ですが、我々にできることはないのでは」とも付け加えます。
「關左相様もそうおっしゃっていだよ。でも、あの女が何か悪行をしていれば‥‥誰とつるんでいるかが分かれば、糾弾もできるだろう」
「しかし、陛下は妺喜様をひどく溺愛しています。真実が分かっても、陛下が受け入れなければ逆に
「それはそれ、これはこれだよ。弱みが欲しいんだ。
關均は少しため息をついて、飲んでいた水をテーブルに置くと「その話は酒を飲んでいないときにしましょう」と返事しました。
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