第183話 風兄弟の処刑(3)
馬に乗って戻った
屋敷から少し離れたところに
さて、位牌を取ったら取ったで、この屋敷から逃げなければいけません。風普は屋敷の中から様子をうかがって、兵士たちの隙を見つけて門から走り出します‥‥が、すぐに「止まれ」と声をかけられます。気づくと、兵士たちに囲まれていました。
そこへ馬に乗った男‥‥おそらくこの兵士たちのリーダーでしょうか、その人に怒鳴り込まれます。
「何をしている」
「自分の家に戻って自分のものを取っただけだ」
「どこへ行く?」
「お前に教える義理はないだろう」
しかし兵士たちは包囲を解きません。この馬上の男は、さらに「ここから逃げるつもりだろう」と聞きます。
「逃げる?なぜ家から出るだけで逃げることになるのだ?私は特に罪を得たわけでも、罪人をかくまっているわけでもないだろう」
「何が何でも、お前をここから出すわけにはいかない」
「へえ」
こうなってしまっては仕方ありません。不作法ではありますが、魔法を使うしか手はありません。風普は呪文を唱えます。周りにあった水蒸気が集まって、一本の槍を作ります。それがさらに膨れ上がって、凍ります。氷の槍が馬の頭に向かいますが‥‥途中でぽきっと折れます。
「なに!?」
「悪いな、俺は
男がそう言うやいなや、粉々に割れた氷が次々と地面の土の中に取り込まれてしまいます。同時に地鳴りがしたかと思うと、風普を取り囲むように周りの地面から土の壁が、音を立てて盛り上がります。
◆ ◆ ◆
その3日後、
朝廷も後半にさしかかったところで、今度は罪を犯した貴族やその家族の処遇をどうするかというところにきました。
「3日前に風普が逮捕され、処分待ちです」
「おう、あの反乱者の弟か。殺せ」
‥‥しかし、1人だけ口を挟んだ人がいました。夏后履癸のすぐ隣にいる
「陛下、待て」
「どうした。妺喜、あの反乱者に同情するのか?」
「いや、同情ではないから申し上げているのじゃ。確かにあいつは重罪人であるから、
「というと?」
「
「確かにそれはそうだ」
ここで妺喜は、大きく目を見開いて、デブで汚らわしい夏后履癸の顔をじっと見つめます。
「他の者が反乱を起こす気が失せるくらいの方法で処刑せねばならぬ」
「確かにその通りだ。で、どの刑にするのだ?
「それはこれから考えるのじゃ」
妺喜はそう言いつつ、夏后履癸の懐に頭を預けます。そのかわいこぶりと天使のような笑顔は、小悪魔のようなものでした。
そして、ちらっと家臣たちを見ます。家臣たちは意外と驚いた様子もなにか懸念を抱いている様子もなく、平然とすました顔で立っていました。まるで、女の考えることだから斬首よりも軽いものだろうと言わんばかりの顔つきばかりでした。むしろ妺喜にとっては良都合です。
◆ ◆ ◆
もちろん妺喜には、今の自分への抵抗がないわけではありません。自室にこもって机に座り、刑罰の内容を竹間にしたためている間にも、「やめるのじゃ」という自分の声が聴こえてくるような気がします。そのたびに妺喜は筆を止めます。筆を走らせて、止めて、走らせて、止めて。
妺喜はことんと筆を置くとため息をついて、机の引き出しを開けます。そこには髪の束が入っていました。妺喜はそれを握ります。
もしかしたらあの3人のものですらないかもしれません。しかし、刑死した親の遺品を持っていることが知られると、
妺喜はぎゅっとその髪の毛の束を握りしめます。やめる必要はない。このまま書き続けていればよい。これを書くわらわを悪魔と非難するならば、わらわを作った
ノックもせずドアが開きます。それを許可された人は、この世でただ1人。妺喜の事実上の夫であり、唯一体を許した相手であり、そして殺したいほど憎んでいる男です。
「妺喜、酒に付き合ってくれ」
「うむ。わらわもちょうど、陛下の抱擁が欲しかったところじゃ」
そう言って襟をどかして鎖骨まわりの肌をちらっと見せて、妺喜は立ち上がります。
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