第166話 喜鵵の待遇(1)
やっぱりといえばやっぱりですが、いったん
ふと、あたしたちは黒焦げになった男たちとすれ違います。手首を
あの竜たちを倒したのは、竜のような巨大な炎です。それに食べられたのなら‥あの竜に人が乗っていれば、たちまち燃えるでしょう。もしやあの竜に人が乗っていた‥‥あたしは嫌な予感が拭えません。
立ち止まったあたしたちを見て、任仲虺が「どうしますか?」と小声で尋ねてきます。「追いましょう」と子履が言いました。
「寮でこれからのことを相談したほうがいいのでは?」
「さっきの竜は
心配になったあたしが一応聞いてみましたが、子履のその返事になるほどとうなずきます。
◆ ◆ ◆
地面に座らされたその捕虜は、6人いました。みんな黒焦げです。その男たちの前に立っていた公孫猇は、怒鳴るような威厳のある声で言いました。
「お前たちは誰だ。名乗れ」
するとその中央にいた、ほかと比べて少し太っている男が言いました。
「蒙山
「他の奴は子か?」
「息子と兵士だ」
「子はどれだ?」
「こいつが
「そうか」
簡単な聞き取りもした上で、公孫猇は周りの将軍と相談してから言い下しました。
「さて、お前らは
6人はみな黙って、兵士たちに連れて行かれました。その後姿を確かめた後で、公孫猇は「さて」とあたしたちを見ます。
「お前たちはどうした、帰ったんじゃなかったか」
「はい」
子履が前に進み出ます。先程の公孫猇の威厳ある声を聞いてもなお、堂々としているのがすごいです。たった1年前は押しに弱いという印象を受けましたが、この世界を平和にするという信念があれば何でもできるタイプに見えました。
「
「‥‥なに?」
それを聞いて、先程まで自信満々そうに堂々としていた公孫猇が一瞬だけ体を動かし、目を大きく開けていたのに気づきました。
「夏王さまは妺喜を強引に
「あ、ああ、わかった。妺喜が後宮にいるのは誰から聞いた?」
「
「分かった」
あたしたちは公孫猇にあらためて頭を下げて、その場を立ち去ります。後ろの方から、「おいそこ、後宮を調べろ」という声が聞こえました。ひとまずはこれで大丈夫でしょうか。大丈夫だと思いたいです。
◆ ◆ ◆
寮に戻ると、やっぱり何人かの学生たちがロビーに集まって騒いでいました。
「ああ、外出してたんだ」
「はい」
「竜に襲われなかった?無事だった?」
「はい、無事でした」
「そうか。僕たち、そのことで大騒ぎしているんだ。竜の姿を見たかな?」
ああ‥忘れていましたが竜は神獣です。伝説の生き物です。それが現実に斟鄩に来たのですから、純粋な好奇心もあるかもしれません。竜を見たも何も、あたしと子履は間近で見ていたのでよく覚えてます。
‥‥今はちゃんと答えないほうがいいですね。
「はい、竜が斟鄩を襲っているのがとても信じられないくらい、雄大な姿でした」
「その3頭の竜を一度に燃やした火の竜は見たかな?」
「はい、遠くで見てもわかるくらいの迫力でした」
嘘を言ってることもないはずです。あたしは子履に「ここにいますから、先に部屋にお戻りになって」と言いますが、子履はまたあたしの袖を引っ張って、あたしをまっすぐな目で見て唇を噛みます。
「‥はい、分かりました。姚不憺様、
「ああ、分かった」
あたしは子履に引っ張られるように、寮の奥に消えていきました。
◆ ◆ ◆
そういえば
「何で今日はそんなに積極的なのですか?」
子履がベッドから飛び上がって、照明の逆光でもはっきりわかるくらいに真っ赤な頬をあたしに見せます。
「履様が寝たそうにしてましたので」
「そう見えますか?」
「はい」
子履は、この部屋の向かいのスペースにいる
あたしのせいで子履も起きてしまった様子でしたが、振り向かず、身も起こさず、そこで横になってじっとしていました。あたしは声をかけようとしましたがやめて、もう一度横になりました。子履と反対側を向きました。
子履がそこまで考えているか分かりませんが、あたしの心の中だけでもそれを今すぐ考えていたい気分でした。そんなわけがないと心のなかで何度も念じつつ、それでも、わずかに残っていたあたしと子履の体の結びつきを感じられずにはいませんでした。
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