第133話 子履がグループに入りました
「でも、その中には
あたしが唯一の懸念点を伝えると
「‥‥‥‥‥‥‥‥分かりました。履様あたしが守ります」
「
「そうですね‥‥」
子履が加わる時点でちょっと予感はしてましたが、面倒なことになりました。
◆ ◆ ◆
「‥‥というわけで、
「分かってる」
「あの‥‥事務以外で、その、必要でない話はなさらないよう‥‥」
「分かってる」
再び姒臾の部屋に行ったあたし、今度は
「‥‥こんなこと上司として申し上げたくないのですが、少しでも何かあればすぐ‥‥」
「
テーブルの椅子に座っている姒臾相手に、あたしは
あたしは椅子に座ってから、尋ねます。
「姒臾様。まさかとは思いますけど、履様との復縁を望んでおいでですか?」
「俺はもう諦めているが、父上がうるさいんだ。もちろん
「父上のために履様に接触するおつもりは?」
「ないよ。いずれ失敗したことにして帰るつもりだ」
あたしははっきり言葉にはできないのですが、姒臾の体の動きのどこかから、微妙にまだ諦めたくないというようなオーラが伝わってくるような気がします。姒臾自身はまだ納得していないのかもしれません。ですが、もうそのようなことができる関係でなくなったことは、本人も頭で理解していると信じたいです。
話も終わったし帰りましょうと思ったところで、今度は姒臾のほうから質問してきます。
「お前も俺のこと、許せないだろう」
「許せませんよ」
そりゃ自分を殺そうとした人を許せるのって、かなりのお人好しじゃないとできませんって。
「何をしたら許してくれるんだ?」
「何をしても許しませんよ」
「俺はこれから何年か、お前の部下として働くんだ。お前がそれだと、俺もつらい。許してくれるなら何でもする」
「知りません。お父上と相談してください」
そう言って立ち上がりますが‥‥言ったあとでなんですが、あたしちょっとひどいことを言った気がします。姒臾はもっとひどいんですけどね。‥‥そして一歩、二歩、自分の歩数を数えるように歩いてみるのですが‥‥やっぱりあたしもつらいです。
例えば姒臾は平民の仕事を何も文句言わずにやってくれましたし、あたしの求めに応じて20分間も魔法を使い続けてくれましたし、あれをもし姒臾が許して欲しい一心でやっているのでしたら、逆にあたしが姒臾の立場を利用して無理を言っているようにもとれるような気がしたのです。‥‥いいえ、悪いのは全部姒臾ですから。
ふと姒臾を見るとうなたれているように見えましたので、あたしは小さめの声で補足します。
「職場の関係は別の問題ですから。料理の仕事で何か困ったことがあればあたしに相談していいですよ。失敗しても相談して。すぐ追い出したりはしませんから」
姒臾は返事しませんでした。あたしは少し立ち止まりましたが、そのまま部屋を出ていってしまいました。
◆ ◆ ◆
子履の手配は案外うまくいきました。
ただ貴族たちの都合や料理人を雇う金もありますので、文化祭前に練習できるのは2回だけです。今日はその1回目です。2回目は1回目の反省を生かした検討も兼ねる予定です。
「フライパンにお米と調味料を乗せて、それをあたしの真似をしてかき混ぜてください。油は多めに」
コンロなど安全装置が整備どころかこの世界に存在しないわけで、屋内でするわけにはいかないので学園のグラウンドのすみを借りてやりました。そして調味料ですが、実はこの練習に先発って姒臾たち火属性の学生に頼んで事前に味の調整をしておきました。十分かというと嘘になるのですが、おいしくはないということはない程度の出来には仕上がったと思います。
今回も土で身長ほどの大きなバケツのような、穴の空いたドラムのようなものを作りました。そこに木材や可燃物を入れて、今回は五徳かわりに市場で見つけた金網をしいて、火をつけます。というか金網この世界にあるんですね。いえ金網と言えるかもよく分からなくて、目はけっこう粗くて、小さな子供くらいなら通れそうな大きさですけど、大きなフライパンを置ければ何でもいいです。
料理人たちも案の定、フライパンを持ち上げて中身を転がすという初めてやる所作に戸惑っていました。ほぼ全員が途中でごはんの半分を落としていました。貴族も貴族で、10分もたない人もいて早めに交代してもらっていました。
やっとできました。できたチャーハンを小分けして貴族たちにお礼代わりに配ります。あたしが料理人たちと一緒に後片付けしているかたわらで、貴族たちの「見たことのない味だ」「何なんだこの食感は」という声が聞こえてきます。ああ、強火でないと出せない食感があって、それそのものがこの世界には今まで存在しなかったのかもしれません。
「おいしいですよ、
子履までもがそう言ってきました。ただ、またその後に付け加えます。
「石炭があれば魔法なしで強い火を扱えるはずです。冷害が終わったら夏王さまに頼んで石炭を発掘し、あわよくば鉄道などの研究開発を奨励してもらいましょう。確か前世の中国では、北部に炭鉱が多かったはずです」
「石炭ってこの世界の人達に扱えるんでしょうか?」
「そもそも石炭が使われるようになったのは、まだ電気も鉄道もなかった時代です。この世界に鉄はあるようですし、他にも時代錯誤のものがたくさんありますので、掘って使うまではそれほど難しくないはずです。石炭という物体に対する前提知識がここにありますからなおさらでしょう」
というふうに意欲を見せています。正直あたしはいつまでも子履のそばにいたいわけではないのですが、石炭の話ができるのはこの世界でも子履とあたし2人しかいません。そうですね、子履と一緒にこの世界の科学を発展させるのも悪くはないですね、そして早く卜いで何でもやるのをやめさせたいです。なんてことを願ったら負けなのでしょうか。
「石炭から蒸気機関が生まれ、鉄道が生まれ、工場が生まれ、産業革命がおこり、世界の科学は急速に発達しました。夏王さまのもとでは自由にできないかもしれませんが、ある程度科学発展のきっかけというものを作るのもまた夢ですね」
チャーハンを食べる貴族たちを眺めながら、子履はそう言ってほほえんでいました。心なしか、そのときの子履の目はきらきらに輝いていました。
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