第113話 曹王媺の戴冠
「はじめまして、あたしは商の国から来た、姓を
「わたくしは
「
「よく言われます」
「あっ」と、その隣にいる人を見ます。2人と違ってかなり立派な服を着ていて、一見で
「ふふ、あなたたちが仲虺の言っていたカップルなのですね。お似合いですね」
ですからカップルじゃないです。否定したかったんですが外国の王様にいちいち訂正入れるのも野暮なので「はは‥‥」と苦笑いしておきます。
そうだ、
と思ったら、子履と話していた薛王
「
「あ、いや、それは‥‥」
あたしの見えないところで勝手に決定事項みたいに話さないでもらえますか。なんかこう、外国の人には否定しづらいんですよ。なんだろう、外堀埋めるのやめてもらっていいですか。
「それは‥‥ええと、あたしの一存で決めることではございませんので」
「あら、まあ、そうでしたの」
と任礼嬦は答えます。なんか微妙な空気が流れています。
「そうだ、
「げっ、い、いや‥‥」
まってまって。あたし、子履のこと全然好きじゃないんですけど。好きじゃない人の好きなところ聞かれても困りますって。
「‥‥‥‥その、優しいところ、とか?」
「優しいところは誰にだってありますよ。ふふ。相手が相手だから好きなのでしょうね」
「は、はぁ、そ、そのようなものです‥‥」
冷や汗をたらたら流してしまいましたが、この話はそれで終わりました。話が終わると子履がにこにこ笑って、あたしに寄ってきます。
「私、優しいんですね」
「あ‥‥ど、どうなんでしょうね」
と、あたしはにこにこしてる子履から目をそらします。
◆ ◆ ◆
各国の人々が広場の中央を挟むように整列して並びます。
中央に棺が担ぎ込まれてきます。もちろん前王が崩御したのは数ヶ月前なので、死体が入っていたらかなりにおっているはずです。中身は骨なのか形見なのかわかりませんが、儀式に出すに適したものが入っているのでしょう。
そして、これまた誰よりも美しく着飾った服を身に着けた、黄色っぽい金髪っぽい茶色のツインテールの少女が、上品に歩いてきます。
重臣らしい初老の家臣が、
あれが本物の冕冠ですね。遠くてよく見えませんが、
と、家臣は姬媺の手前で止まり、それを差し出す前に姬媺に話します。
「陛下、陛下は前王が亡くなられた後、会話をやめ、娯楽を避け、質素な食事と衣装を好み、
姬媺はしばらく黙ります。会場に大きな沈黙と気まずさが走ります。大きくため息をついているのが、遠くから見ていても、胸と腹の動き具合から分かりました。
「こんな場所で言うのは、あんたらしいわね」
「ここで言わないと聞き入れられませんゆえ」
あれ。姬媺の声を久しぶりに聞いたような気がします。久しぶりすぎて、こんな声の子があたしの知り合いにいたっけ?と混乱してしまうレベルです。それほどに、姬媺は本当に何も話していませんでした。仲直り(なのでしょうか?)した直後に訃報が届いたので、あたしは姬媺とほとんど話せずしまいでした。
姬媺が頭を下げると、家臣がその頭に丁寧に冕冠をかぶせます。同時にどこからともなく大きな拍手が沸き起こり、
周りは千歳千歳と叫びながら祝賀ムードですが、あたしの隣の子履は目を細めて何か不満げにしています。ああ、万歳も千歳もこの時代にはなかったとでも言い出すのでしょうか(※前漢の時代からと思われる)。まあこのような場ですから、それを言うのも野暮ですよ。
そのあとは姬媺のスピーチがありましたが、内容はやっぱりゴーストライターがいるんだなあと思っちゃうものでした。文章がいがついし、理想だけを述べている感じがしました。まあこんなものですね。あたしも子履も周りに合わせて拍手します。
◆ ◆ ◆
曹の国は
大きな祝宴の席も儲けられました。もちろん床に正座ではなく、洋風のテーブルに並んで座って古代中国の食事をとるという変な感じですが。
豪華な食事が次々と運び込まれてきます。あたしと子履は下戸という設定になっているのでジュースが運ばれてきます。どこからともなく声がします。
「陛下の長寿と
大きな乾杯の音が響き渡り、みんなお酒を一気に飲みます。あたしは一口だけ飲んでテーブルに置きますが、それに気づいた子履が飲み終えてからあたしに声をかけます。
「全部飲んでくださいね」
「えっ」
「中国では、乾杯といえば全部飲みますよ。日本とは微妙に違います」
「そうなんですね」
と言われて、あたしも全部飲みます。こうした日本と中国の違いは子履が丁寧に教えてくれるのでありがたいです。
そのあとは周囲の人と話しながら食べます。会場には大勢の人がいるので姬媺と直接話せる機会はないでしょう。少し寂しいですが、また学園で会えたら何か話してみましょう。そういえば姬媺は即位してしまったんですが、2学期に学園へ来れるのでしょうか。
なんてことを考えていたら祝宴も終わり、解散の時間になっていました。曹の家臣や外国人たちが次々とその部屋を出ていって、人数が減っていきます。あたしはふと、前の方を見ました。姬媺はまだ残って、集まる人たちに次々と御礼の言葉を述べています。誰かと話している姬媺を見ているだけで、久しぶりに見るような、初めて見るような、不思議な感覚がします。
「子履さま、
と声をかけてきたのは
「姜莭様、お久しぶりでございます」
「お久しぶりです。ぜひ、陛下と話していってください。喜ばれますよ」
姜莭がそう薦めるので断る理由もないです。あたしと子履は、人混みの中に入って姬媺に近づいてみます。
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