第91話 任仲虺の将来の夢
その翌日の放課後、あたしと
「昨夜のデートも楽しかったですね」
「ああ‥‥はい」
あたしと子履が一緒のベッドで寝ると、なぜか同じ夢を見るのです。そうして、夢の中で雪子とデートしてしまうのです。ゆうべは夢の中で、一緒に映画を観ていました。
「夢の中でもデートできるなんて、すてきな関係だと思いませんか?」
「ただの悪質なストーカーだと思いますけど」
あたしは苦笑いしながらそっぽを向きます。いやストーカーでもできないか。映画は夢の中だというのにまるで現実かのようにきっちり90分間再生されていて、あたしの知らない内容で、夢独特のストーリーの破綻などもなく見る人を引き寄せる展開で面白かったです。あたしも一応楽しかったんですが、黙っておきましょう。
ふと市場に目をやると、
隣の子履が
「
「‥‥あら。来ていたのですね」
仲虺は本を上品げにばたんと閉じて、あたしたちを見ます。それから小さく首を振って、本棚に戻します。本といえば前世の古代中国では竹簡や木簡が主流だったらしいのですが、この世界では安価な本は紙でできています。
「ただの取るに足らない本ですよ」
「そんなことはございませんよ」
子履がくすくす笑っています。なにか事情を知っているのでしょうか。
「そんな‥」
任仲虺が頬を赤らめて本の背を手で隠しますが、子履はそれを払い除けて本を取り出し、タイトルを読み上げます。
「『
「ですが‥」
いつもは堂々としていた任仲虺も、このときばかりは染めてしまった頬を手で隠して、ちらちらとあたしを見ています。
「
「‥‥そうですね。摯さんはわたくしの友人ですので」
任仲虺は子履から受け取った本の表紙を、あたしに見せます。
「‥‥わたくしは作家を目指しています」
「いい夢ではありませんか、なぜ恥ずかしがるのですか?」
「‥‥その、そうですね、ふふ」
任仲虺は今度は自分の口を手で覆い、上品に笑う仕草を見せます。
「ところで玄冥とは何ですか?」
「
子履が解説します。
「仲虺様も歴史が好きなのですね」
「歴史好きというよりは、小説がたまたま歴史ものだったのです。でも、昔の人々がもしこのような設定で、何をどうしていたらと想像するだけでもわくわくするのです」
そんな任仲虺のところに、店長っぽいおじさんがやってきました。任仲虺とは知り合いらしく、笑顔で朗らかに話しかけてきます。
「おや
「あっ」
任仲虺が後ろにいるあたしたちをちらちらと見ます。あれ、2冊売れたって言ってましたっけ?
「仲虺様、本をお出しになっていたんですか?」
「私も知りませんでした」
任仲虺は汗をたらします。さっきの比ではないくらいに顔を真っ赤にして、うなずきます。おそらく詮索しないほうがいいってやつです。それ以上の話はやめて、軽く世間話でもしましょうか。
◆ ◆ ◆
いつもとは別の飲食店で
「わたくしは
この世界では、
「仲虺様は王になるおつもりはないのでしょうか?」
「野心はございませんよ。姉の次は姉の子に譲るつもりです。家臣がわたくしを勧めた時はその時ですけどね。こう言うと叱られるかもしれませんが、わたくしは国政よりも
そう言って、任仲虺は水を飲みます。紅茶のような高級品を出せる
あたしは手元の皿にある皮のむかれた
「それで、どのような物語がお好きなのでしょうか?」
「歴史上の人物を題材にした創作物も好きですし、
意外と革新的な夢です。確か前世の
当然のようにあたしの隣りに座っている子履に小声で確認してみます。
「この時代ですと、ローマ帝国が西の方にありましたよね?」
「まさか。この時代にローマはまだありませんよ。アッシリア(※現代のイラク北部にあった王国)ならあったと思います」
そう言って、子履も水を飲みます。
「でも日本はもう
「卑弥呼は紀元後の三国時代ですから、これから約2000年も後です。神武天皇の即位は約1000年後ですし、弥生時代すらまだ始まっていませんよ」
あれ?全部昔のこと過ぎて何が何だかわからないです。ローマ帝国も卑弥呼もそんなに新しかったのでしょうか?ていうか、夏王朝があまりにも古すぎたのでしょうか?前世と大きく異なるとはいえ、ここまで発展した
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