第79話 法芘の密約
あたしは
「はい。内密に依頼したいことがございます」
「それは
「はい。間違いなく」
夏にとって有益なことか?と、その夏の王様をデブと言ったり先王の
そんなあたしの太ももを、子履は法芘に見えないように、テーブルの下から優しく撫でます。
「大丈夫ですよ」
「‥はい」
あたしは子履の笑顔を見ると深呼吸して、改めて法芘をじっと見ます。子履は一度うなずいて、それから法芘との話を続けます。
「夏は
法芘は返事をしませんでした。ただ腕を組んで、目を閉じてうなずきながら聞いています。まじめな法芘も新鮮でしたが、今そのことはあまり考えないことにしましょう。
「私はいずれ
「俺には何をしてほしい?」
「私めを夏の家臣に引き合わせてほしいのです。少しでも面識のある人を増やし、情報を得たいのです」
法芘はしばらくうなずいていましたが、やがてため息をつきます。
「他に目的はないのか?」
「私はまだこのような見た目ですが、道に骨の一本も落ちていない商の国を引き継ぐべく、帝王学に励んでいます。私はいずれ、夏の国の道路もきれいにします」
そういえばこの世界では、道端に人骨が落ちているのが当たり前でした。商の道路には人骨が落ちていない、つまり仁徳があり管理が行き届いている国を治めるというアピールです。
あらかじめ用意していたかのように、子履はすらすらと答えます。
「それは
「いいえ」
子履がそう即答すると、法芘はまたため息をつきます。法芘が誰かを信頼しないのは見たことがありませんし、その相手が子履だということにあたしは驚きを禁じえませんでした。
法芘が何度も首をひねっているのを、あたしも子履もかたずを飲んで見守っていましたが、やがてその口を開きます。
「来月、1人か2人を紹介しよう。礼の練習でもしてなさい」
「ありがとうございます」
子履は立ち上がって、深く礼をします。それにつられて、あたしも慌てて立ち上がって頭を下げます。
「いやいや、堅苦しい礼はいらんよ。一度縁談をしてしまった仲だ、親戚だと思って欲しい」
「恐れ入ります」
子履は何度も礼儀正しく頭を下げていました。が、法芘は何かに気づいたように、あたしを見ます。
「‥‥‥‥
「はい。わかりました」
子履が深々と頭を下げて退出した後、あたしは法芘に指で差されて椅子に座ります。法芘は無言でしたが、その笑顔はあたしの知っている法芘だったのであたしの頬も緩みます。
と思ったら、法芘はテーブルの端から回り込んできて、あたしの隣に座ります。その椅子がさっき子履の座っていた椅子だったのであたしは何とも言えない不快さにとらわれましたが、そんなことも気にしていないかのように法芘は、酔っ払ったおじさんのように朗らかに尋ねてきます。
「斟鄩はいいところか?」
「はい」
「友達はできたか?差別はされてないか?」
「はい」
あたしの身の回りを心配してくれています。親のいないあたしに
あたしが肩の力を抜いて答えていると、法芘は少し笑った後、急に厳つい口調になります。
「‥‥さっきの商伯
「はい。私もそう思いますよ」
先程の法芘は子履を信頼していないとみえて、まるで子履が夏に攻め込むかのような口調で話していたので、まずは信頼させるところから始めましょう。あたしはできるだけわだかまりを感じさせないように、はっきり即答するよう心がけなければいけません。
などと考えていると、法芘は誰もいない部屋の様子を見回して、それから口に手を当てて言いました。
「夏は今の王の代で滅ぶと思っている」
唐突な宣告を聞いて、即答しようと決心したばかりのあたしは10秒くらい固まってしまいました。
「‥‥‥‥またまたご冗談を、法芘様のご冗談は毎回きつい‥‥じゃなくて、スケールが大きいです」
「いや、きついとは思わない。事実だ。かつて
あーあ、まーた占いですよ。この世界の人たちって、どうしてここまで占いに偏執するんでしょう。でも法芘は至って真面目です。適当に相槌を打って‥‥。
「まあ、お前は占いなど信じないだろうが、一つだけ言わせて欲しい。子履、あいつは夏を信頼しすぎている。いずれ大きな
「はい」
あたしはとりあえずとばかりに返事しますが、やる気の無さがわかるような声だったかもしれません。法芘はすぐさまそれに気づいたようでしたが、あたしがこう反応するのをはじめから分かっていたようで、うっすら笑いを浮かべてそれ以上何も言いませんでした。
こうして昔のように法芘の隣りに座っているうちに、あたしは不意に、子履がここに来る前に言っていたことを思い出しました。
「‥そうだ、もしかしたら履様がお忘れになったかもしれませんが」
「ん?また何かあるのか」
「はい。夏の佞臣奸臣や今の王朝の状況について、法芘様からもお聞きしたいとおっしゃっていました」
「ああ‥いや、それは、さっきの話の中に含まれるだろう。酒の席で俺たちから聞き出すということだ」
「そうでしたか」
あたし、この世界の習慣にはまだついていけてないところがあります。子履は
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