第54話 姫媺の謝罪(3)
「
もともと目付きの悪い
「だけどそれだけに自分の決断に自信を持ちすぎていて、一度決めたらなかなか周りのことを聞いてくれないの。媺は多分、クラス全員を仲直りさせようとしている。でもそれだと、媺に従っている私達はともかく、自分の意志で喜珠を避けている推移と子辨があぶれてしまうわ」
なるほど‥冷静です。この人達、思ったより冷静です。ということは‥姫媺は相当頑固な人みたいですね。
「それで‥あたしにできることってありますか?」
「私も旻もずっと媺に付き添ってるから、他のクラスからはいいイメージを持たれてないの。
「分かりました」
「‥ありがとう」
あたしはベッドから立ち上がって、2人に礼をしてから部屋を出ようとしますが‥‥ふと疑問が出てきたので振り向いて、尋ねてみます。
「えーと‥この会話自体は
「まさか。媺があんな性格だから、媺が命令した相手を後で呼び止めて、媺の思い通りに行くよう助言するのが私達の仕事よ」
「あはは‥大変でございますね」
「まったくよ。
◆ ◆ ◆
30分後、あたしは死ぬ気で説得してやっと首を縦に振ってくれた妺喜を連れて、姫媺の部屋のドアをノックします。
「どなたですか?」
と、知らない顔の子が応対してきます。2組で見たことがありそうな顔です。あたしが何か言おうとしたところで、奥から不機嫌そうな声が聞こえます。
「悪いけど、その人達と大切な話があるから、
「はいい‥分かりました‥」
劉秀は言葉とは裏腹に、まるでいつものこととばかりに、ためらいもなくそのまま部屋を出ていきます。あたしと妺喜はおそるおそる、その部屋の中に入ります。真ん中のテーブルで、姫媺がお茶と一緒に腕を組んで、胸を張りながらあたしたちを睨みつけていました。
「ドアは閉めて?」
「は、はい」
あたしはドアを念入りに閉めます。
「鍵もかけて」
「はい」
「カーテンも閉めて」
「はい」
といっても2人部屋で姫媺のスペースのほうのカーテンはすでにぴしゃっと閉まっていたので、あたしは代わりに劉秀のスペースの方のカーテンを閉めます。
「窓も閉まってるわよね?鍵は?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、喜珠と一緒にそこの椅子に座って」
「はい」
相変わらず偉そうです。喜珠は人見知りだからと言ったはずなのですが、そんなことも意に介さぬように高慢にふんぞり返っています。今度また妺喜を連れてこいと言われたら、あたしは多分断るでしょう。
「妺喜様、大丈夫ですか?」
「う、うむ‥‥」
妺喜はもう帰りたそうに身を震わせています。あたしはテーブルの下から、妺喜の手を軽く握ります。
と思っていたら、姫媺がいきなり立ち上がって上着を脱ぎ始めます。なにごと!?と思っている間に、すっかり上半身のぷっくり膨らんでいる胸を顕にし、その肌を晒します。漢服って胸が大きくてもわからないんですよね、
「何をされてるんですか!?」
あたしの問いに、姫媺は返事の代わりに
「私は喜珠の悪評を広め、クラスを分断させてしまったわ。喜珠に責任は一切ないわ、全部私が悪いのよ。気が済むまでその鞭で叩いて」
もちろんですが、妺喜は鞭を持ったまま固まっていました。これがプライドの高い姫媺の精一杯の謝罪のつもりなのでしょうか‥‥あの時はあたしにいじめてかかったり、かと思えば今はこんな謝罪まで、姫媺はかなり極端な人のようです。
「すみません、ちょっといいですか。とにかく服を着てください」
「
「そんなことはいたしませんから、どうぞ服をお召しになってください」
あたしは地面に放り投げられた上着を拾い上げて、その背中にかぶせます。しかし姫媺はすぐに、それを払い除けます。うわ、これ姜莭や
「許してほしければ、あたしの命令に従ってください」
「はい」
「服を着てください」
「はい」
姫媺は今度はおとなしく立ち上がって、下着や服を拾い上げて身につけます。4月といっても夕方はまだまだ寒いというか、ミノア噴火だとかで例年より寒いらしいので、服を着てもらっただけでも一安心です。着終わると、姫媺はまた地面に正座します。椅子に座らせようかと思いましたが、この状況であたしたちと対等な椅子に姫媺のほうから座らせるのも逆に気まずいのではと思えてきます。
「妺喜、床に座ろう」
「わ、分かったのじゃ‥」
妺喜は引き気味でしたが、あたしと一緒に地面に直接正座します。絨毯があるとはいえ、西洋風の部屋は正座を想定していないのか、少々床が汚いように感じました。
妺喜がテーブルから持ってきた茶を、あたしは姫媺に差し出します。
「はい、これ飲んで落ち着いてください」
「‥‥‥‥はい」
もともとこれはお客様向けに用意したお茶なのでしょうか、姫媺は何か言いたい様子でしたが、最終的にはそれを受け取って全部飲み干してしまいます。
さて、このあとはどうしましょうか。‥‥なんかこう、もっと普通に、素直に謝ってもらったほうがいいんじゃないでしょうか。でも姫媺があんなことをするくらいですから、姫媺にとって普通の謝罪がどんなものなのか想像つきません。子供向けの諭しになってしまっても致し方ないです。
「恐れ入りますが‥‥ごめんなさいは言えますか?」
「‥‥ごめんなさい」
姫媺は目を伏せます。たいていの人は許してもらえるのを期待して謝るものですが、姫媺はそんなことなど期待していないかのように、肩を落としています。妺喜を見ると指をピクと動かしていましたから、あたしはその肩を撫でて姫媺に言います。
「妺喜様とあたしで話し合いますので、明日またお会いできないでしょうか」
「‥‥分かったわ。でも本当に許せなかったら、その時は‥」
「はいはい、分かりました」
あたしと妺喜は立ち上がって、部屋を出ていきます。その場はいきなりお開きに‥‥‥‥したつもりですが、ドアを閉めても姫媺はまだ地面に座っている様子でしたので、そのすぐ後に部屋に近づいてきた劉秀を呼び止めて、夕食に誘いました。
劉秀いわく、姫媺は普段あんな人だったから慣れているし自分は問題ないということでした。姫媺、普段何をやってるんですか。
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